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中国ビジネス最前線 第3回

中国ビジネス最前線 第3回
中国で「日本企業文化論」を開講したワケ

中国ビジネス最前線 第3回
中国で「日本企業文化論」を開講したワケ




2013年、私が当時通学していた北京大学経済学院EMBAコースでたまたま日本語学科の教授に講義を受ける機会があり、休憩時間に教授に素朴な質問を投げかけてみた。「北京大学のような一流大学の日本語学科卒業生は皆、一流日本企業に就職するのでしょうね?」と。答えは意外なものだった。北京大学は中国の最高学府なので就職先の一番人気は国家公務員または国営企業であることは理解できた。しかしながら、なんと期待していた二番人気は欧米への留学であり、日本企業就職は三番人気だと知り愕然としてしまった。欧米留学を選択するということは、せっかく習得した日本語を捨てるという意味である。即ち日本語を専門に勉強した学生にとって日本企業への就職が魅力的ではないということだ。中国でも以前から日本の年功序列制度による弊害や男女の賃金格差などが知られており、最近では“ブラック企業”“過労死”“大企業の粉飾決算”などが連日報道されている。そのニュースだけを見ている中国人学生からすれば日本企業を懐疑的に思うのは当然のことである。

そこで、その教授に「北京大学日本語学科で、日本企業の本質を1時間でいいから私に語らせてほしい」と打診した。しばらくすると大学から許可がおり、日本語通訳翻訳修士課程でとりあえず1回だけ講演することになった。私は「日本人は中国人と比べてなぜ転職が少ないのか」を講演テーマとして取り上げ、次のように解説した。戦後の日本経済を復興するための労働力確保として、地方の中学校・高校の卒業生は東京や大阪、名古屋などの都会に集められた。いわゆる集団就職である。雇用主は終身雇用を約束したうえで職業訓練を施し一人前に育て上げた。この終身雇用制度を維持させるために年功序列と社内ジョブローテーション(配置転換)が生まれたのだ。

日本企業文化論ゲスト講師:
資生堂(中国)投資有限公司 久保井氏

このように、日本では同一企業内でローテーションしながら適性を見つけ、永年勤続することこそが美徳とされてきた。学生たちはこれらの歴史的背景に触れ、日本企業で転職やジョブホッピングが少ない要因の一つとして理解してくれた。もちろん、現在では日本でもこの仕組みはかなり変化し、必ずしも美徳ではないことも付け加えたが。 最初の講演が図らずも評判を呼びシリーズで講義してほしいとの声が大きくなり、2014年の春節明けから通年で開講することになった。講座名「日本企業文化論」は北京大学だけでなく上海外国語大学からも声がかかり、北京・上海駐在の日本人ビジネスパーソンをゲスト講師に招き、なぜ日本は老舗企業数が世界一多いのか、日本企業はグローバルで勝てるのかなどをテーマに今も講義を展開している。これまでの4年半で、180分の講義を両大学で約50回実施した。その結果、日本企業に対する誤解も解け、開講前は北京大学日本語通訳翻訳修士課程修了者では日本企業に2割しか就職しなかったが、現在では5割を超えるようになった。



中国人のみならず、中国に駐在している日本人の口からも、在中国の日本企業は保守的で、人事制度面で欧米流グローバルスタンダードからはずれていると漏れ聞くことも多い。特別な能力を持つ社員、例えば高度ITスキル保有者の給与を特別に高くすることもなく、高い実績をあげた社員の昇級・昇給スピードを格段に上げることもない。あるのはグラスシーリング(見えない天井=現地採用社員のキャリアには限界がある)だけだと。その一方で、社員を大切に扱い、長い期間をかけて育成しようとする家族主義的な日本企業が意外と好感を持たれている事実を、我々は認識すべきである。近代社会において世界経済は確かに欧米企業が先導してきたが、実は世界一長寿企業が多いのは日本である。家族主義的経営であるが故に世界一の企業長寿化を成し遂げ、また長寿の秘訣はイノベーションの積み重ねにより支えられている。さらには社会との共生を重要視するが故に社会貢献活動に熱心であるといった売り手と買い手だけではなく世の中にとっても良い、まさに “三方よし”であることを。但し、認識するだけでなく、それを中国社会にきっちり説明する努力が日本企業にはまだまだ足りていないからこそこの当講座の意義があると考えている。





ワークスアプリケーションズ中国 董事長

北京大学特別招聘教授

上海外国語大学特別招聘教授

一般社団法人コンピュータソフトウェア 協会国際担当理事

五十木 正(Tadashi IKARUGI)

ワークスアプリケーションズ中国 董事長

北京大学特別招聘教授

上海外国語大学特別招聘教授

一般社団法人コンピュータソフトウェア 協会

国際担当理事

五十木 正(Tadashi IKARUGI)








掲載日

2018年5月23日(水)

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