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中国ビジネス最前線 第4回

掲載日

2018年6月13日(水)

中国ビジネス最前線 第4回
不完全と思う日本人、未完成と思う中国人

中国ビジネス最前線 第4回
不完全と思う日本人、未完成と思う中国人




2人の日本人アーティストが中国で称賛される理由

休日に上海で二つの日本関連イベントに参加した。一つは女性ポップシンガー中島美嘉氏のコンサートであり、もう一つは建築家の安藤忠雄展であった。

私は音楽に疎く、中島美嘉氏の顔も曲も知らなかったが、日本だけでなくアジア、特に中国では大変有名で人気のある歌姫とのこと。週末の時間を持て余している私を見かねた上海の友人が誘ってくれてコンサート鑑賞となったが、聴いてみると音程がずれているように感じた。ちなみに、このコンサートチケットは、体育館の2階席が980元(日本円で約17,000円)で、披露された約30曲はすべて日本語であった。音程のずれに加え日本語のみというパフォーマンスに中国人の観客は皆満足しているのかと友人に尋ねたところ、その回答は予想を裏切るものだった。「彼女の魅力は歌だけでない。ファッションやダンスなどのステージ全体の演出や、生き方を含めた総合力に大いに満足している。素晴らしかった!本当に来て良かった!」確かに観客席は満席で、プログラム終盤でも立ち去ろうとする人はいなかったことは皆が彼女のステージに心酔している証かもしれない。そこで、中島美嘉氏について中国のネットで調べてみたところ、「両側耳管開放症」というミュージシャンとして致命的な耳の病気に罹り、それが原因で歌う際に音程が外れる症状がみられることがわかった。この難病を言い訳にせず、ハンデを抱えながらステージに全身全霊で取り組む姿が中国のファンを魅了しているのだ。私は歌唱力の一面だけに固執していたことにバツが悪くなった。

その翌日は安藤忠雄展に行った。彼がプロボクサーから独学で建築家になり著名な作品を世に送り出した軌跡を説明するコーナーでは、たくさんの中国人が展示物を一つひとつ丁寧に鑑賞していた。グループで訪れた人たちもお互いの感想を小声で語り合い、張り詰めた空気が漂っていた。静謐な会場で来場者に質問を投げかけるのは憚られ、休憩コーナーでお茶を飲んでいた大学生に満足しているのかを尋ねてみた。そうするとその学生は、作品への高評価は当然のことながら、安藤氏が76歳の現在までに歩んできた数奇な運命・人生に感嘆・共鳴していると語ってくれた。彼の話によると、なんと安藤氏は2度の癌手術で胆嚢、胆管、十二指腸、膵臓、脾臓を摘出し、それでもまだ現役にこだわり世界を飛び回り大活躍されているとのこと。驚くべきことに、これは中国ではよく知られている話であり、これにより安藤氏はそのデザイン力はもとより、不死身で縁起の良い人と高く評価・支持され、設計の注文が殺到しているそうだ。

“カンペキ”ではないものを、どのように捉えるか?

何かが欠落している状態を不完全と決めつければ、そこで思考が停止する。しかし、未完成と考えれば未来を考えることになる。戦後の経済発展過程において絶対品質を求め続けた結果、私を含む大方の日本人が「カンペキ症」であるのに対し、不足や欠陥が前提でそれを乗り超える力を持っているのが現在の中国人ではないかと考えるのは穿ち過ぎだろうか。我が社の中国人営業から「こんな機能を追加すれば売れる」という報告をよく聞く。一方で「こんな機能が不足しているから売れない」とは誰も言わない。現在の中国の経済成長には、足りないものがあれば未完成と捉え、完成に邁進する人や問題を克服する人を慕い敬う人間性をもった人たちが寄与していると感じる。

実は、私もつい最近突発性難聴を罹患した。中島美嘉氏が罹った両側耳管開放症と同じように、ぼやっとしか音を聴き取れない、ときには激しいめまいも伴う辛さを体験している。また、安藤氏と同じく二度の癌手術でふたつの臓器を摘出し、「もうこれが最後。これ以上取ったら生きていられない」とも思っていた。しかし休日に上海で参加したこの二つのイベントで、現在の体調は不完全でなく未完成であると切り替えれば良いのだと自分に言い聞かせることができた。幸いにも、私の聴力はほぼ戻り、なにせ安藤氏が取った5つの臓器は私の体にはまだ丸々残っているのでまだ余裕があると思うことにした。





ワークスアプリケーションズ中国 董事長

北京大学特別招聘教授

上海外国語大学特別招聘教授

五十木 正(Tadashi IKARUGI)

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五十木 正(Tadashi IKARUGI)








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