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中国ビジネス最前線 第6回

中国ビジネス最前線 第6回
大陸に埋もれてしまうのか、日本企業文化

中国ビジネス最前線 第6回
大陸に埋もれてしまうのか、日本企業文化




日本企業は人気が無い?!

日中国交正常化以来46年間、多数の日本企業は中国に進出し、多くのビジネスを展開している。だが最近は、その存在感が薄くなっていると感じるのは、私だけではなさそうである。中国で就職活動中の大学生や一般社会人からも、同じような意見を耳にするようになったからだ。彼らから見れば、以前の日本企業は欧米と同じ”外資系”であり、給与が高く洗練された従業員が活躍しているイメージだった。しかしながら、昨今は、高給でオシャレな職場環境をそなえた中国企業も増えている。今やアリババやテンセントのように、革新的なビジネスモデルを次々に生み出し、時代をリードする企業が中国人の憧れになっている。そうした事情が、日本企業の勢いは過去のもの、と感じさせているのだろうか。

“世間良し” も理解

中国の巨大Eコマース企業であるアリババは、創業者ジャック・マー氏が退任意向を表明したことで、日本でも話題になった。そのアリババの杭州本社は、日本人の隈研吾氏(2020年東京五輪 新国立競技場設計者)によって設計されたという事実は、中国国内ではあまり知られていない。中国で隈氏は、安藤忠雄氏と並ぶ有名な日本人建築家であるが、まさか中国の代表企業の本社屋を設計していたとは――中国人にそのことを伝えると皆ビックリする。隈氏が得意とする木材をふんだんに使ったオシャレな内装と、欧米系従業員が多くグローバルな雰囲気を醸し出すアリババ本社は、シリコンバレーなのかと錯覚するほどである。また、人事制度も能力主義すなわち成果報酬型であり、高評価を得ると一流の外資企業でも追いつけないほどの高給が期待できる。したがって、年功序列型人事制度を引きずる在中国日系企業は、中国の大学生を対象にした就職人気企業ランキングでの凋落が激しいと聞く。

しかし、企業の本質とは何か。「生活が便利で豊かになる製品やサービス」を作り出し、その結果で利益を得て社会に貢献し、更に生活を豊かにすることが存在意義ではないだろうか。就職先や取引先を選ぶとき、存在意義=経営理念を”社会貢献”におく企業を評価すべきだという主張を通すのは、中国ではかなり難しいことだ。それでも私は、社会貢献にこだわりを持つ日本型企業経営の神髄を紹介したく、中国の大学の教壇に立って日々説いている。更にこれを、一般市民にも理解してもらう機会を窺っていたところ、 第5回コラム に書いたが、日中平和友好条約締結40周年記念として、在上海日本総領事館で日本企業文化論に関する講演の機会をいただいた。100人の定員枠はすぐに満席となった。講演テーマには日本企業の社会貢献活動を取り上げ、開口一番で日本企業の特徴でもある「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」の”三方良し”のビジネス精神を解説した。すなわち、商売をするときには、まず相手の立場やメリットを考えること。そうして蓄積した信頼は、やがて自分に大きな利益をもたらすこと。更には、その利益をもって今度は学校の建設や橋の建設といった、社会に大きく貢献するのが企業の美徳とされていることを話したところ、皆頷いてくれた。


(写真:植樹で社会貢献する在中国日系企業の従業員たち)

美徳の重ね塗り

一方で、日本企業や日本人は、善行(美徳)をひけらかさないことも美徳とし、美徳の上重ねをしている。そのため、中国での社会貢献活動は、現地の人に全くと言っていいほど知られていないのがもどかしい。

実は、前述の講演準備を進めるにあたり、日本では名の通った在中国の日本企業トップ10人に面談した。全員が社会貢献活動に真剣に向き合い、熱を込めてその重要性を語ってくれたが、誰も自慢風には話さない。これらの企業は、貧困地域に小学校を建設する希望小学校プロジェクトに参画したり、あるいは文房具や書籍など教育備品を学校に寄贈したり、環境改善のための植樹や地域の清掃等にも日常的に取り組んでいる。また、企業の強みを活かし、ある化粧品会社では、顔や身体の傷跡や痣を隠す無償カウンセリングを実施したり、映像技術に強い会社では、国立故宮博物院や少数民族の文化遺産を未来につなぐため、それら遺産をデジタル化して中央政府や地方政府に寄付していたりする。これらの社会貢献活動を、講演の中で具体的に紹介したところ、聴講者から驚きと大きな称賛の声が湧いた。講演終了時には「日本企業が中国で社会貢献活動をしているのは初めて聞いた!」という彼らに取り囲まれ、多くの質問や要望をいただいた。

今こそ陰徳から陽徳へ

語源が中国語にある「陰徳を積む」という言葉を日本人は好む。由来は『淮南子・人間訓』に「陰徳有る者は、必ず陽報有り。陰行有る者は、必ず昭名有り(人知れず徳を積む者には必ず誰の目にも明らかなよい報いがあり、隠れて善行をしている者には必ずはっきりとした名誉があるものだ)」である。陰徳のふるさと中国ではどうだろうか。一部の社会貢献は陽徳として報道されており、例えば、ジャック・マー氏は、退任後に教育を通して社会貢献すると宣言した。あるいは、香港の映画スターの周潤發(チヨウ・ユンファ)氏は、全財産56億HKドル(邦貨換算約800億円)を公益事業に寄付すると発表している。世界的にも超が付くほど有名な二人だが、彼らの人生観を知れば、決して売名行為ではないことに気付く。

日本的陰徳もいいが、このままでは社会貢献を旨とする日本企業文化が大陸に埋もれてしまう。我々日本人ビジネスパーソンは、今こそ陽徳をもって、日本企業の存在を積極的に中国社会に示すべきではないだろうか。現代社会、特に中国において以心伝心に頼っていては何も思いが伝わらない。


(写真:2014年、弊社が北京大学に図書館を寄贈した際のプレート)





ワークスアプリケーションズ中国 董事長

北京大学特別招聘教授

上海外国語大学特別招聘教授

五十木 正(Tadashi IKARUGI)

ワークスアプリケーションズ中国 董事長

北京大学特別招聘教授

上海外国語大学特別招聘教授

五十木 正(Tadashi IKARUGI)








掲載日

2018年11月22日(木)

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