<社内セミナー実施レポート>

ワークスアプリケーションズ・グループは、2022年にMission(企業理念)の実現に向け、Vision(目指す姿)と5Ways(行動指針)を再定義しました。

 Mission  私たちは「企業の生産性」を高め、企業価値の拡大に貢献します
私たちは「働く」の概念を変え、仕事をより創造的な活動へ変えていきます
私たちは「クリティカルワーカー」に、活躍の場を提供します
 Vision  「Wow!(ワォ)」を顧客、職場、社会に。
技術と製品サービスで、驚き・興奮・感動を創り出すクリティカルワーカー集団
 5Ways  顧客とWow!:顧客の思考や感情までをも理解し、顧客とともに驚きや感動に昇華させる 
アジャイルでWow!:機敏に実行・改善・仕組み化を繰り返し、常に顧客体験を向上し続ける 
動いてWow!:変化の兆しを察知し、迅速に考え、そして確実に動く
みんなでWow!:多様性の存在を認め、誠実かつ公正な態度で、互いを尊重する
Wowに誇りと情熱を!:人の能力・可能性を信じ、一人一人がWAPの誇りとなる


そして、「Wow!」を創り出す土台づくりとして、三菱マテリアル株式会社 CIO 板野様をお迎えし、「CXOに学ぶ、企業変革のカナメ」と題した社内セミナーを実施しました。先頭に立って仕事に取り組まれているキーパーソンの考え方や活動をお話し頂き、新たな気づきを得ることで、仕事のレベルアップを図る目的です。本記事では、10月26日に行われた板野様のご講演や参加者の声を紹介します。

■講演概要
テーマ: “人中心”のIT戦略/DX戦略

    ~21世紀の人類のキーワード “Awareness & Compassion”~
登壇者:三菱マテリアル株式会社 CIO システム戦略部長 板野 則弘 様

板野様ご経歴
1989年三菱化成(現・三菱ケミカル)入社。生産技術部門(現・岡山事業所)を経て、生産技術拠点立ち上げのため、米国シリコンバレーに駐在。帰国後、2000年に情報システム部に異動し、ビジネスへのIT活用(Eビジネス)を推進。2012年三菱化学(現三菱ケミカル)情報システム部長、2015年三菱ケミカルホールディングス情報システム室長。2018年10月より三菱ケミカルの情報システム部長に就き、DX推進プロジェクトマネジャーも兼任。2021年4月1日に三菱マテリアル株式会社 CIOに就任。

ERP実装で見えたこととシステムにおける原点

90年代後半に前職の米国生産拠点の立ち上げで駐在することになったシリコンバレーで、インターネットビジネスの機運の高まりを目の当たりにしました。そこで、ビジネスにおけるIT活用の必要性を感じ、それまでは生産技術エンジニアでしたが、帰国後に情報システム部に異動しました。今回お話する内容は、そこから20数年を経てのITやDXに対する私の考え方が中心となるので、客観的に聞いていただければと思います。

ERP実装を何度か経験して、システムやDXにおいて課題や困難に直面した時に立ち戻るべき原点はエンタープライズ・アーキテクチャーの概念だと考えるようになりました。
【図】エンタープライズ・アーキテクチャーのフレームワーク

【図】エンタープライズ・アーキテクチャーのフレームワーク


システム・エンジニアの教科書に載っているような4項から成る単純な図ですが、IT(情報技術)というのはこの図でいうと下2つを指します。ITはその上にくる「人」が担うビジネスやデータといったIS(情報システム)の「ツール」であって、ISとITは似て非なるものというわけです。ERP導入を推進するプロジェクトは、所管部署が情報システムに丸投げして終わるものではなく、きちんと所管部署がガバナンスを立てなければいけません。ITだけでなく、業務、データとシステムが三位一体となって組み合わさり、このエンタープライズ・アーキテクチャー全体を網羅することで初めて実現します。

ERPはいったい誰のためのものかと米国と日本の経営者にそれぞれ尋ねてみると、前者は「経営」のため、後者は「現場」のためだと答えます。日本の商習慣は、お客様の力が世界一と言えるほど強いため、そもそもスタートラインが海外と異なります。基幹システムは、ある程度標準化しなければいけない側面もありますが、前述したような各国・各地域・各ビジネスによって異なるマーケット特性を無視してはいけないと考えます。

グローバルなIS戦略策定に求められるマーケット特性の理解

私はIS=IT+業務プロセス+マーケット特性だと考えています。グローバルに展開されている製品があるとして、なぜその仕様で通用するのか、それを理解するためには、やはりマーケット特性の理解に意識を注がなければいけません。

私の場合は、日本のマーケットを理解するために色々な資料やデータに着目しました。日本と米国の産業別労働生産性を数値化したデータを見ると、日本のサービス産業の分野は明らかに低いものの、製造業の数値は悪くない。むしろ化学単体は、米国の生産性の1.4倍も良い。このデータから私が推測したのは、日本の化学産業では普段からの小さなトラブルを防ぐほぼ100%のプラント稼働率があってこそ労働生産性が高く、サービス産業における労働生産性の低さは、おそらく無償の過度なサービスに起因するのではないかということです。こういう風に、データや数値に表れない部分を深掘りしていくことが現状改善の鍵になってくると思います。

少子高齢化なので人をAIで置き換えていきます、という風潮もありますけど、私自身は違和感を覚えていて、そうではなくてスキルの高い労働力という日本の強みを理解し、それを活かしながらITやAIを掛け合わせていくことで、今後の活路を見出し、世界に立ち向かっていけると思います。

AwarenessがもたらすDX戦略の本質

DXのプロセスの中で一番難しいのは圧倒的に実装以降です。机上やシミュレーションでは色々できても、実際にやってみるとまったく違います。そうやって、Try & Errorを重ねてリスクを低減させて越えていくことが重要です。ここでDX戦略の本質について私なりに考えていることをご紹介します。

企業の成長を考える上で、前提として資源投入量が比例してくるとします。アナログの世界でも成長はするものの、そこへデジタルが加わることで一気にその度合いが加速することになります。新しいアイデアはゼロから生まれるものではなくて、何らかの種があって、それに人が気づくこと(Awareness)を経て、人の創造力によって膨らましたり、組み合わせたりしていくことでもたらされるものです。私は「気づきの種」と呼んでいますが、アナログ状態では見逃しがちな種はデジタル化によって可視化できるようになります。それに気づくことこそ、AIで置き換えることができない、人にしかできないアクションだと思います。

人が中心になって創造性を発揮しなければ「気づきの種」は花開かず、この世界に変革をもたらすことはできないと思います。私が言いたいのはDX戦略の本質における主役は人であって、そのお膳立てをデジタルがやるということです。

そうはいっても、今行われているDXの大部分がITツールの積極的活用による業務の効率化と自動化だと思います。「両利きの経営」という言葉が最近流行っていますが、私も同じことを結局は考えていて、「知の深化」とは既存の延長でしっかりとITツールを活用して、業務の効率化と自動化を図っていくものです。一方「知の探索」は、人の「気づきの種」を使って、誰もが創造性をどんどん出していって新しいものを創る、これを全部あわせてDXなんです。

日本企業の強みは「人」

グローバルを意識する上ではマーケット特性の見極めも大切ですが、日本企業の強みともいえる「人」が活き活きと中心になって、IT活用とDX推進が行われていくことが優先すべきポイントだと思います。その中で、人と組織のパフォーマンスをいかにして上げるのかということも考えなければいけません。

パフォーマンスを上げるためにはスキル(経験)×モチベーション(やる気)の面積を最大化するものだと教科書には書いていますが、私としてはここにもう1つ「集中(考える)」という軸を加えて考えています。どれだけスキルとモチベーションが高くても、やはりマルチタスクで色々なことが一気に押し寄せた時に、考えずにやってしまったり、丸投げしてしまったり、パフォーマンスは良くならないからです。

最後に“Compassion”について触れます。日本語では、思いやりや利他的という意味の言葉です。今、地球環境を守りながらのビジネスが注視されていますが、果たしてそれを実現し、インターネット出現のような人類の歴史のターニングポイントに成り得るのか否か。私自身が故郷へ災害ボランティアに行った際に、純粋に気持ちを通わせて何かをやることを経験して、人と人の本来あるべき姿というものを感じました。そういう真の利他性、“Compassion”があれば地球環境を維持するという大きな目標にも、共感力を持って力を合わせてやっていけるのではないかと思っています。

参加者の声

・WAPがこれからどう戦っていくか、ヒントがありました。

・「人・組織のパフォーマンスをいかに上げるか」について、能力×サポート×モチベーションというのは聞き覚えがありましたが、集中(考える)という視点はなかったなと実感しました。マネジメントをするうえで、様々なパフォーマンスに関する方程式があると思いますが、今回のお話を参考に自分の方程式を確立していきます。

・未だ気付かれていない気付きの種を可視化させるのがITの活用で、その気付きの種を機に新たな活動や取組に繋げるのがDXというのが、これまで聞いたDXの説明の何よりもしっくりきました。

・日本とアメリカの商習慣の違いによってシステムオーナーの意識に違いが生じているという点から、DXなどの改革を進めていくためには、トップダウンとボトムアップという経営・現場両方の目線を取り入れて進める必要があるというお話に共感しました。

  • ※本記事は2022年10月時点の内容です