~CFO Forum掲載記事~ デジタルインボイスがもたらす「インプットレスの世界」
※本記事は一般社団法人日本CFO協会が運営する「CFO FORUM」に掲載されたスペシャルコンテンツの転載記事です。
ー企業間取引のデジタル化による会計業務の抜本的な改革ー
2023年10月1日から施行されるインボイス制度(適格請求書等保存方式)まで1年を切った。インボイス制度は、売手と買手の税率と税額の認識をインボイス(適格請求書)で一致させ、消費税の仕入税額控除をする新たな仕組みである。さらに、インボイス制度と並行し、国際基準に沿って記載内容をデジタル化したデジタルインボイスの仕組みが普及することで、企業間取引のDX化の進展が期待されている。インボイス制度においては免税事業者との取引等の課題は残るが、デジタルインボイスによって紙やPDFでの取引が完全にデジタル化されることでバックオフィス業務は大きく変革するはずだ。
本記事では、日本CFO協会の櫻田修一主任研究委員と、デジタルインボイスに対応するシステムのパイロットプログラムの提供を10月より開始したワークスアプリケーションズ・グループからSaaS担当の藤井信介執行役員とERP担当の石川翔悟執行役員の2名が、同グループが目指す、デジタルインボイスがもたらすバックオフィス業務の抜本的な業務改革について意見を交わした内容をご紹介する。
目次
参加者
櫻田 修一 氏
一般社団法人日本CFO協会 主任研究委員
株式会社アカウンティング アドバイザリー マネージングディレクター
公認会計士
藤井 信介 氏
株式会社ワークスアプリケーションズ・システムズ 執行役員(SaaS担当)
石川 翔悟 氏
株式会社ワークスアプリケーションズ・エンタープライズ 執行役員(ERP担当)
櫻田:ワークスアプリケーションズさんというと、人事システムからスタートされた会社のイメージがあるという方も少なくないと思いますが、現在は会社分割を経て、2004年から提供されている財務会計システム等のERPパッケージが軸となっているのですね。まずはワークスアプリケーションズさんの特長についてお聞きしたいと思います。
石川:ワークスアプリケーションズ・グループでは、実行領域と言われるようなSCMを含めた会計領域をパッケージとして提供しています。私共のビジネスコンセプトは、「ノーカスタマイズ」と「無償バージョンアップ」です。お客様のIT投資効率を低下させる一因となる個別カスタマイズをなくすため、業種・業態を問わず企業に必要とされる業務要件や商習慣を汎用化し、標準機能として提供するというのが、「ノーカスタマイズ」の考え方です。「無償バージョンアップ」は、法改正やミドルウェアの進化等に対して、お客様から追加コストをいただくことなく、保守料の範囲内でバージョンアップを実施するというものです。これらの点が評価され、現在では大手企業様を中心に、約320企業グループ・約2,200社のお客様にご利用いただいています。
櫻田:私自身、多くの会計領域に携わってきましたが、ERPの会計領域は、銀行や証券といった金融業界を除くと業種に大きく左右されないと考えています。なおかつ国際会計基準も導入され、会計として求められる事柄は出揃っていると思います。会計の領域で、ワークスアプリケーションズさんのコンセプトが発揮できている具体例はありますか?
石川:2021年から適用となった「収益認識に関する会計基準」では、機能追加は特にしていません。我々の製品は、計上基準のタイミングを日本の商習慣上自由に選ぶことができ、すでに機能対応できていたからです。収益認識基準が統一されたとしても、製品上は大きく影響を受けることはなく、お客様は設定を変更するだけで対応完了いただきました。追加のIT投資の必要性がなく、対応することができたという一例です。
今回のインボイス制度では、請求書を発行する側だけでなく、請求書を受領する側の支払い業務も影響を受けます。新たに開発をする必要がありますが、お客様のIT投資を最小限に、より低コストで提供できるように努めていくという姿勢で臨んでいます。
櫻田:では、次にDXについて伺っていきたいと思います。私自身は、DXを3つの視点で考えています。1つ目はビジネスのデジタル化、2つ目に取引のデジタル化、最後はプロセスのデジタル化です。経理目線では、取引とプロセスのデジタル化が重要なテーマと考えます。特にプロセスのデジタル化は、会計上の見積もりを除く月次決算の自動化ですね。そして、最近ではデータドリブン経営といわれるように、データに基づく経営意思決定が重要と考えます。ワークスアプリケーションズさんとして、経理・財務領域のDX推進をどのように捉えているのでしょうか?
石川:プロセスのデジタル化は、弊社が会計製品を提供し始めた当初から基本としてきたポイントです。現状、自動処理は各製品に組み込まれていますが、完全に月次決算が人の手を介することなく完了するという域までは到達できていません。自社内だけのデータフローに限れば、一定の投資によってプロセスの完全なデジタル化は実現できるかもしれませんが、取引のデジタル化は1社だけで完結することができないからです。まずは企業間の認識を一致させる必要があり、これはデジタルインボイス等の国の施策が影響してくる部分です。
PDFをメール等で送付することも電子データ送信になるのでは? と思われるかもしれませんが、これらは標準化も構造化もされていない電子データに過ぎず、いわば情報が欠落した状態になります。これに対し、デジタルインボイスは、自動処理が可能となる標準化・構造化されたデータです。デジタルインボイスの普及により、企業間の情報伝達のデジタル化が実現すれば、月次決算の完全自動化という未来も見えてくるのではないかと思います。だからこそ、我々としても、このデジタルインボイスには大きく期待していますし、普及に向けて貢献していきたいと考えています。
CFO FORUM 第140号 財務マネジメント・サーベイ「コーポレートガバナンスの強化とITシステムの貢献」より引用
櫻田:日本CFO協会の財務マネジメント・サーベイを見ていると、やはり電子帳簿保存法改正とインボイス制度によって、一気にクラウドシフトやデジタル化が加速していることを実感します。法制度が変わったことによって、長年続いてきた商習慣を変えざるを得なくなったものの、実際にやってみて便利さを知るという流れで、少しずつでも改革が進んでいけばいいなと思っています。ワークスアプリケーションズさんは大手企業をターゲットにすることが多いと思いますが、デジタルインボイスの普及のキーポイントはどのようにお考えでしょうか?
藤井:普及のためには、企業規模を問わず支援させていただきたいと考えています。すでに弊社のSaaS事業では、多くの中小企業様へサービスを提供しています。デジタルインボイスでは、実質的には多くの取引先を持つ大手企業が中心となって、その取引先である中小企業にも普及していく流れになるとみています。大手企業にも中小企業にもできるだけタイムラグなくデジタルインボイスを浸透させたいと考えており、企業規模を問わずすべての企業様にデジタル化による効率化のメリットをすぐに実感いただけるようなサービスを提供することに、使命感を持って取り組んでいます。
櫻田:日本CFO協会の2020年の調査ですが、会計領域でSaaSのようなクラウドサービスを使っているという企業は売上高5,000億未満では5~7割です。ところが、売上高5,000億~1兆円の規模の企業では3割を切っています。そういう意味で、ワークスアプリケーションズさんがすべての企業を支援するというのは頼もしいことですね。
櫻田:請求書領域では、多くのベンダーが様々なソリューションを提供されていますが、ワークスアプリケーションズさんの製品にはどのような特徴があるのでしょう?
藤井:冒頭に、櫻田さんが会計という領域は業種が異なっても基本的には同じだとおっしゃったように、会計システムの機能面というものは、実際のところ製品ごとに大きな差は出ないと考えています。弊社には、様々な企業の会計業務における生産性を改善してきた実績があり、大手企業様を中心とした約2,200社の顧客基盤が強みとなっています。当社製品をお使いの大手企業のお客様にデジタルインボイスに対応する製品をお届けするのはもちろんですが、その取引先である中小企業等の皆様も、今後デジタルインボイスでの取引が必要になるケースが増えると想定されます。そのような場合、ご利用中の会計システムでは即時対応が困難なケースでも、弊社SaaS製品を組み合わせてご利用いただくことで、スムーズにデジタルインボイスに対応でき、より早くデジタル化の利便性を実感いただけると考えています。さらに、ERPやSaaS製品との連携により、請求書周辺業務にとどまらず、ワークフロー連携や広範囲の業務改善につなげていくことで、どんどん自動化できることを増やしていくことができます。
CFO FORUM 第127号 財務マネジメント・サーベイ「リモート経理に向けた請求書の電子化に関する実態調査」より引用
石川:弊社はデジタルインボイス推進協議会の幹事法人も務めています。協議会には約200の法人・個人が参加していて、その目的は、国際規格のPeppol(ペポル)※1をベースにした標準仕様であるデジタルインボイスの利活用・普及を通じた会計、税務にかかわる業務全体のデジタル化推進です。
櫻田:Peppolは、私自身はあまり聞き馴染みがないのですが、日本における状況はどのようでしょうか。
石川:Peppolは欧米を中心に展開されていて、アジア圏でもシンガポールに入ってきています。日本では、デジタル庁が国内におけるPeppolの管理局となって、Peppolをベースにした国内でのデジタルインボイスの標準仕様の普及と定着に向けた取り組みを進めています。国際基準で統一の標準規格となっていくということで、弊社も民間の立場から、デジタルインボイス推進協議会の企画や検討部会への参画を通じて支援活動に取り組んでいます。
櫻田:普及のためにも、協議会やベンダー企業の皆さんが積極的に発信していってほしいですね。
石川:Peppolの普及率は、欧米でも国によって大分差があるようです。民間がどこまで導入メリットを訴求できるのか、低コストで導入できるようにするのか、といったところがポイントになってくるでしょうし、しっかりと対応していきたいと思います。
※1:Peppol(Pan European Public Procurement Online)とは、電子文書をネットワーク上でやり取りするための「文書仕様」「ネットワーク」「運用ルール」に関するグローバルな標準仕様。
石川:インプットレスと言っても、まったく人が手を介さないというものではありません。稟議、予算、戦略や事業計画等に付随して、取引先との見積もりから発注、納品、請求、決済まで一連の流れが発生します。それら企業間の情報伝達をすべてデジタル化し、ネットワーク上でつないでおけば、取引先から届く情報に自社の情報を併せるだけで、都度何らかのデータをインプットするという負担がほぼなくなります。人が何かしら手を加えることに対して、チェックをして承認するプロセスはなくなることがありませんが、この部分をいかに減らすことができるのかがポイントです。
デジタルインボイスによって、圧倒的な量の情報を請求書に組み込むことができるようになります。そうなってくると、支払伝票が自動的に起票できるようになります。また、日本の商習慣の中で請求書と自社の支払伝票を照合する業務がありますが、ここもデータ規格が統一されると、自動化できるようになると思います。金融庁が推進する全銀EDIシステム(ZEDI)※2というものがあるのですが、デジタルインボイスの請求書情報を銀行の入金情報に付与できる「新ZEDI」いう新たな仕組みを作っています。新ZEDIによって入金消込作業をすべて自動化できれば、差額確認等の重要な業務にも集中ができるようになります。情報を分断させることなく半自動化していくという未来こそ、インプットレスの世界と言えるのではないかと思います。
決済システムにAPIを読ませてアプリケーションで対応できるようにしているという企業様もいらっしゃるとは思いますが、基本的にこれまではFBデータと言われる全銀協フォーマットを前提に、固定長を情報の伝達媒体として最小限の情報を提供するという形になっていました。そこにZEDIが入ったことで情報量は増えたものの、まだ普及しているとは言えない状況です。情報量が増えたとしても、その用途が明らかになっていなかったことが一因だと思います。デジタルインボイスが始まって、新ZEDIも活用できる状況となれば、大きく見方も変わってくると思いますし、ソリューションの組み合わせを通じて、データそのものの業務意図や内容まで汲み取ることができるようになれば、受け取る側も業務の利便性を感じていただけるようになるのではないかと思います。
※2:全銀EDIシステム(ZEDI)とは、支払企業から受取企業に総合振込を行うときに、支払通知番号・請求書番号等、様々なデータの添付を可能とするシステム。ZEDIの導入によって、入金消込業務の効率化等、企業における資金決済事務の合理化が可能となる。
櫻田:デジタルワークプレイスという概念では、仕事の環境そのものをデジタル化する、そして当然に取引もデジタルで完結していくという流れになると思いますが、ワークスアプリケーションズさんでは仕事環境のデジタル化という分野ではどのような取り組みをされていますか?
藤井:我々のSaaS型システム「HUE Works Suite」という製品の開発コンセプトは「現場から手軽に始めるDX」です。複数人でプロジェクトの進捗管理がオンラインでできるシステムや、手軽に稟議や申請を回せるクラウド型ワークフローシステムといったサービスがあり、デジタルインボイスの対応サービスと併せてご活用いただけるような連携も想定しています。各社に合ったデジタルワークプレイスを支援していきたいと思います。
藤井:デジタルインボイスの対応サービスでこだわっているのは使いやすさです。弊社の強みである顧客基盤を活かして、大手企業のお客様から中小企業のお客様まで、双方にご利用いただけるようにしていきたいと考えています。技術力と開発スピードには自信をもっていますので、パイロットプログラムをスタートするなかで製品機能の改善を行い、より良い製品を市場に投入したいと考えています。さらに、使いやすく安定した品質をお届けするだけでなく、コスト面でも貢献していきたいと思っています。
櫻田:やはりUI・UXは決め手になりますよね。会計はあまり業種ごとの差が出ない領域ですし、より使いやすいシステムが選ばれていくと思います。いかに少ない動作で情報を入力できる、直感的に操作できるとか、作業の流れが途切れない等、そういう細かいところですよね。
石川:現場の方がいかにさっと使えるかどうかはやはり大切ですね。細かな使いやすさは業務を詳しく知っていないと反映できないところなので、お客様の視点には重きを置いて改良に努めています。
櫻田:本当にDX普及させるためには、現場の方々がどうやったらITを使いこなせるようになるのかという視点は不可欠ですね。
石川:ERPにおいて、デジタルインボイスは情報伝達手段の1つですが、圧倒的な情報量を兼ね揃えているという点が有益といえます。その情報を元として、インプットレス等のDXが進み、企業における抜本的な業務変革につながっていくことを期待しています。デジタルインボイス推進協議会の幹事法人としても、しっかりその普及に向けて、会社を挙げて対応していきたいと思っています。