WorksWay 2023にもご登壇予定の阿部 剛士様の過去講演内容を公開
「CrossTalk “Wow!”」 実施レポート

2023年6月15日
株式会社ワークスアプリケーションズ

 「CrossTalk “Wow!”」は、日本を牽引する各企業の方をゲストスピーカーにお招きし、幅広く、鮮度の高い、実用に供するテーマについて、自社刷新のために取り組まれていることや日本社会の革新を図るために実行されていることをご紹介いただくとともに、インタラクティブに熱く語り合う、当社主催のトークイベントです。
参加者の皆様に、感動、興奮、驚きによって思わず「Wow!」と思っていただけるような考え方や価値観の共有を通じ、互いの企業の成長を促す一助になることを目指しています。

 2023年3月に開催された第一回目の「CrossTalk “Wow!”」では、横河電機株式会社のマーケティング本部長 阿部様にご登壇いただき、有形資産から無形資産へとシフトする企業価値と変革についてお話しいただきました。本記事では、阿部様のセッションとそれに続く当社代表取締役最高経営責任者の秦(はた)並びに当日ご参加いただいたお客様を交えた対談内容をご紹介いたします。


 

■講演概要
テーマ: 「見えなくてもあるんだよ!」~無形資産価値と変革~
登壇者:横河電機株式会社 常務執行役員 マーケティング本部長 阿部 剛士様


阿部様ご略歴
横河電機株式会社 常務執行役員 マーケティング本部本部長 CMO 博士(技術経営)
アムニモ株式会社 取締役
横河バイオフロンティア株式会社 取締役

1985年、現インテル株式会社に入社。インテル・アーキテクチャ技術本部本部長、マーケティング本部本部長、技術開発・製造技術本部本部長を歴任。2009年以降、取締役、取締役 副社長、取締役 兼 副社長執行役員に就任。2016年、横河電機株式会社に入社し、R&D、M&A、知財、新事業開拓、事業計画、標準化戦略、オープンイノベーション、工業デザインなどを傘下にマーケティング本部を統括、現在に至る。
2023年4月には、横河電機株式会社が経済産業省特許庁より令和5年度知財功労賞の「特許庁長官表彰(オープンイノベーション推進企業)」を受賞。


日本の企業が迫られる無形資産の情報開示対策

まず、知財・無形資産ガバナンスの背景に触れます。企業への投資判断の情報ソースに占める比率、つまりは、機関投資家が企業のどの部分を見て評価しているのかというと、海外の調査によれば、いわゆる有形資産の財務報告書よりも非財務情報といった無形資産が高くなってきていると言えるでしょう。

昔はとにかく短期的に利益を出せるのかどうかという基準で評価されていましたが、昨今のSDGsの流れもあって、その企業が長期的に見てどういった形で社会貢献を果たすことができるのか、そういった目線に変わってきているのです。欧米と比べて日本ではまだまだですが、この先、企業が広く投資を得ていくには、無形資産に対する対策をしっかりと講じていく必要があります。

無形資産には、ノウハウ、データ、ネットワーク、研究開発といった知的財産のカテゴリーに含まれる4つ、そして人材、ブランドといったものがあります。日本においても、これらの知財をはじめとする無形資産が競争力の源泉になるということで、金融庁と東京証券取引所が出すコーポレートガバナンス・コード(CDC)の2021年の改訂によって「知財への投資に関する記述」が組み込まれ、開示推奨だった知財への投資等に関する情報が義務へと変わりました。それによって企業価値が向上し、さらなる投資を受け、資金確保につながることが期待されているというわけです。

さらに、2022年1月には「知財・無形資産ガバナンスガイドライン Ver.1.0」が策定され、徐々に政府側においても準備が整ってきている状況となってきました。(※2023年3月27日にはVer.2.0が公表)ますます上場企業はこれらのガイドラインに従って開示をしていかなければいけないということで、焦りを感じてしまっているのではないかと思います。

無形資産がここまで評価される理由でもある4つの性質についてお話ししますと、まず最初にスケーラビリティ(拡張性)です。二つ目はサンク(SUNK)、コスト回収が難しいという表現でもよく使われる言葉ですが、裏を返せばコピーされにくいということではないでしょうか。デジタル化の時代では、優れた技術やビジネスモデルもなんでもコピーされやすいため、コピーされにくい唯一無二のことは何かという風に企業は考えていかなければいけないということです。次にスピルオーバー、伝播しやすいこと。最後にシナジー(相乗効果)です。これら4つを、企業の経営者は意識して経営をしていかなければいけないと言われています。

ガイドラインには、知財・無形資産の投資・活用戦略の開示やガバナンス構築の取り組みを示すものとして、5つのプリンシプル(原則)とさらにその下に7つのアクションが定義されています。企業は、このガイドラインにある程度従って、投資家や金融機関らと対話を図っていくことが期待されているというわけです。今や投資家が求めるのは単なるアセットの情報ではなく、それがどういうキャッシュフローを生み出すことが期待できて、どのように社会貢献をするのかというストーリーです。当社でも、ガイドラインを独自にブレイクダウンして無形資産戦略を策定し、今後の活用検討を始めています。

「知財・無形資産ガバナンスガイドライン」の全体像
出典:内閣府「知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドラインVer1.0(概要)」(2022年1月)

企業が取り組むべき無形資産における3本の柱

無形資産には主に3本の柱があります。1つ目の柱がブランド(のれん)、2つ目が知的財産、そして3本目が人財です。まず、人財について触れると、日本でも昔から「人は石垣」という言葉がありますが、人的資本マネジメントについてのグローバルスタンダードといえるのが、国際標準化機構(ISO)が2018年にリリースしたガイドライン「ISO30414」です。当社ではISOのガイドラインに沿って人的資産を11領域に分け、定量化を進めているところです。

非財務資本の中で、人的資本の次に開示が重要となると期待されているのは知的資本、つまりは知財です。知財のトピックが経営会議や取締役会に一度も出たことがないような状態は良くありません。当社でも元々は経営と知財戦略には距離がありましたが、特許の分析をしたり、知財の組織強化を図ったりすることによって距離も縮まり、今ではそういった経営者の参加する会議にも知財のトピックが含まれるようになりました。知財は、ただ単に特許の数を増やせばよいのではなく、その質も問われます。IPランドスケープといわれる知的財産経営の状況になるには、まだ2年くらいかかるかなというところですが、プランに沿って愚直にやっていきます。ちょっと余談ですけれど、知財は盆栽と似ていて、放っておくと価値は出ません。適切な知財情報開示に向け、いかにメンテナンスをして価値を上げられるように育てていけるのかが重要です。

見えないもの、無形資産こそ大事

そして、最後にブランド戦略です。国内の特にBtoB企業がブランドに対して感度が低い理由は、ブランドが目に見えないものゆえに定量的に表現することが難しいことが考えられます。それが、最近ではInterbrand社が、ブランドの可視化・定量化する術を持っていて、当社でもその指標を用いて自社ブランドがどのくらいの価値を持っているのか定量的に計測するようにしました。やはり、ブランド価値と株価というのは強い相関関係になっていると感じます。

Interbrand社が毎年発表している世界のブランド価値の高い企業Top 100のランキングを出していて、上位5位までの企業に共通するキードライバーとなった要素は、志向力、俊敏力、そして共創性でした。日本のTop 100では、信用度、そして、世界のTop 5と同じ俊敏力と共創性でした。CSV(Create Share Value)という言葉も最近使われていますが、共通価値を創っていける協調性の高い企業はやはり強いと思います。当社のブランディング活動では、こうしたキードライバーにまんべんなく向き合うのではなく、「ブランド強度評価モデル10要素」の中から、まずは3つに定めて向上させてきたので、次の5年間では新たに「共感力」、「独自性」、「存在感」の3つを選び、効果的に取り組んでいこうとしています。

日本の企業経営者の中には、なかなか目に見えない無形資産について頓着できないという方もいらっしゃるかもしれませんが、そんな時は見えないものこそ大事だという星の王子様の言葉を思い出していただければよいかもしれません。


 

(対談)定性的なストーリーで見えないものを見せる

秦:ずっと「Wow!」となりながらお話を伺っていました。投資家目線を意識して、見えないものをうまく可視化している具体例はありますか?

阿部様:例えば特許を可視化するツールはありますが、それをエビデンスとしつつも、どういうキャッシュフローを生むのかというストーリーを作る必要があります。

秦:より定量的というよりも定性的なストーリーで見えないものを見せ、投資家を納得させていくということですね。

秦:短期志向の企業だと、いつリターンが出るか分からない数値化や可視化をするためのブランディング活動に投資するよりも、製品やサービスの需要喚起の広告に投資をした方が良いとなるように思います。ブランディング投資を正当化できている事例があれば教えてください。

阿部様:それこそ私が以前いた企業でありまして、当時私はただのエンジニアでしたが、そうしたブランディング活動を目の当たりにして、マーケティングの面白さやブランディングが人の行動を変えるんだということを知り、自分のキャリアをマーケティングに転身させました。

秦:セッション中に日本企業の企業価値に占めるブランド価値の割合が低いとおっしゃってましたが、単純にブランディングへの投資が少ないということでしょうか?

阿部様:日本では、組織の中に販売促進はあってもマーケティングの部署そのものがないという会社が多かったり、投資というよりも戦略がなかったりします。OECD(経済協力開発機構)に加盟する先進国の中で、最もマーケッティングが遅れてるのは日本だと思います。

秦:先ほどのInterbrand社のランキングのお話で、海外は「志向力」で将来を見ているのに、日本は「信用」で過去の実績を重要視しているところに大分違いを感じますね。今後日本がブランディングに力を入れていく中で、企業文化や組織マインドを変えていかなければ、グローバルには勝てないと示唆されているようです。

阿部様:欧米の好調な企業の経営者が得意とするのは「成長」ですが、日本では「存続」が一番大事で「成長」は二の次という傾向にあるのではないでしょうか。「存続」は必要条件、「成長」は十分条件で、見ている指標が違います。要素は他にも様々あるので、各企業で合うもの、強化していきたいものを選んで強化されていかれると良いかと思います。

(対談)データでどのように変革をもたらすかは経営者の手腕による

秦:可視化したり、定量的に見たりするのはなかなか難しそうに感じますが、そこへDX(デジタルトランスフォーメーション)という概念は活かせるものでしょうか?

阿部様:DXは名前の通り、トランスフォームしなければいけません。データは、料理でいうと食材です。良いデータがあっても、どのように変革をもたらすかは、経営者の手腕になります。逆をいえば、データさえしっかり整備できれば、あとは使うだけですね。

秦:我々は今社内でインプットレスの世界を目指そうとしています。自動化によって都度何らかのデータをインプットするという負担を減らすと。そのためにも、インプットの質はある程度担保しなければいけないのかなと思います。

阿部様:情報データは、最初は使えるものと使えないものが混在していてもよいのですが、そこへデータの仕分けやリンケージ(連動)にAIを使うこともできると思います。

秦:せっかくなので参加者の方からもご質問をどうぞ。

参加者A:「ブランド評価モデル10要素」から、まず「共感力」「独自性」「存在感」の3つを選んだ理由を教えてください。

阿部様:この中で一番チャレンジングなのは「存在感」です。当社はこれまではフォロワーとしてブランドを構築してきましたが、最近では、お客様から求められているものが大分変わってきています。単に指示を受けるフォロワーではなく、「DXってどうしたらいいの?」という風にコンサルティングを求められるリーダーにならなければいけない。あとは新分野の事業において、新たなお客様と長くお付き合いしていくためにも「共感力」ですね。

参加者A:具体的にそれを高めるためのアクションとは?

阿部様:ひとつはデジタルマーケティング、デジタル営業ですね。これまでは営業マンがお客様を見つけていかなければいけませんでしたが、今後はお客様に見つけてもらわなければいけないと。今はほとんどのお客様ご自身がネットで情報を検索されて、スペックなども見られてきた上で営業マンと初めて話をするようになっていて、購買行動が昔とは変わってきています。

(対談)Just on Timeにしないとお客様はもはや「Wow!」を言わない

参加者B:サーチの段階からどんどんAI等が入ってくると、プレゼンスを出していくための手法は変わっていくと思うのですが、レコメンドしてもらうためにはどうしたらいいでしょうか?

阿部様:お客様をお待たせしないことは企業にとって相当なアセットだと思います。そういう俊敏力によってユーザーロイヤリティも高まります。いかに早くレスポンスをするのか、Just in TimeではなくJust on Timeにしないともはやお客様は「Wow!」とは言わないんです。それくらいTime is Moneyの色は強くなっていると思いますね。

秦:デジタルの世界が重要になってくると、例えばAIの正確性は、デジタルの中でどれが正しくてどれを信じたらいいのか分からなくなるものですが、どのように捉えていくとよいでしょうか?

阿部様:信じるか信じないかはその人次第なんですよね。センスメイキング理論を使ってAIの正確性の腹落ち感を醸成する必要があると考えています。昔はITリテラシーというとPCが使えるかどうかでしたが、今は情報をどう正しく見ることができるかという意味合いになっていると思います。

秦:今後、何が正しいか分からない世界になるのであれば、情報のトレースをして何が正しいか評価していかないといけませんね。

阿部様:そうですね。もしかしたらそういう情報が正しいかどうか判断するようなサービスもこれから求められるかもしれないですよね。欧米の企業のトップが最近何をしているのかというと、美術館に行って、Visual Thinking Strategy(対話型鑑賞法)というのですが、絵を見て妄想するトレーニングをしていると。これも、何が正しいかどうかを自分で判断しないといけない時代だからというわけです。

  • ※本記事は2023年3月時点の内容です


阿部様がご登壇予定の「WorksWay 2023」について

阿部様は、WAP主催のビジネスフォーラム「WorksWay 2023 守・破・離-先駆の知恵から、経営基盤強化を加速させる2日間-」にご登壇されます。

名称:WorksWay 2023 守・破・離 - 先駆の知恵から、経営基盤強化を加速させる2日間 -
会期:2023年7月19日(水)~2023年7月20日(木)
会場:オンライン開催
対象:企業経営層、経営企画部門、情報システム部門、経理財務部門・購買部門 等
参加費用:無料
参加方法:イベント特設サイト(https://worksway.jp/)より、お申込みいただけます。(事前登録制)

ワークスアプリケーションズについて

ワークスアプリケーションズは、1996年の創業以来、日本発の業務アプリケーションのパッケージソフトウェア会社として、主に国内の大手企業向けに製品・サービスを提供してまいりました。「働く」の概念を変え、仕事をより創造的なものへ、企業の生産性を高め、企業価値を拡大する、この企業理念のもと、ERPを軸としたソリューションプロバイダーとして、大手企業に加えて中堅・中小・スタートアップ企業のDX推進のパートナーとなれるよう、さらなる発展を目指していきます。

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