世界初のISO30414 SRA準則第三者保証を取得された
日本情報通信 桜井 伝治様の講演内容を公開
「CrossTalk “Wow!”」 実施レポート

2024年2月20日
株式会社ワークスアプリケーションズ

 「CrossTalk “Wow!”」は、日本を牽引する各企業の方をゲストにお招きし、鮮度の高い、実用に供するテーマについて、自社や日本社会の革新を図るために実行されていることをご紹介いただくとともに、インタラクティブに熱く語り合う「Cross Talk(掛け合い)」イベントです。
 参加者の皆様に、感動、興奮、驚きによって思わず「Wow!」と思っていただけるような考え方や価値観の共有を通じ、互いの成長を促す一助になることを目指しています。

 今回の「CrossTalk “Wow!”」では、2023年3月期から開示が義務化された「人的資本」を取り入れた経営を先駆的に実践されていらっしゃる日本情報通信株式会社 代表取締役社長執行役員の桜井 伝治様にご登壇いただきました。
 本記事では、「企業価値を創る人的資本経営」について桜井様にお話いただいた内容と、セッション直後に交わされた当社代表取締役最高経営責任者の秦や参加者の皆様との「CrossTalk」を、ハイライト版としてご紹介いたします。



 

■講演概要
テーマ: 「企業価値を創る人的資本経営」~世界初のISO30414 SRA準則第三者保証取得まで~
登壇者:日本情報通信株式会社 代表取締役社長執行役員 桜井 伝治 様


桜井様ご略歴
日本情報通信株式会社 代表取締役社長執行役員

1984年4月、日本電信電話公社に入社。エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社のソリューション事業部企画部 マーケティング部長、経営企画部ビジネスモデル推進室 担当部長を歴任。2008年6月、エヌ・ティ・ティ・コムチェオ株式会社 代表取締役社長に就任。2010年6月以降、エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社のネットビジネス事業本部OCNサービス部長、営業本部長、取締役、常務取締役などを歴任。2019年6月、NTTコム ソリューションズ株式会社 代表取締役社長に就任。2020年6月、日本情報通信株式会社 代表取締役社長執行役員に就任し、現在に至る。



人的資本をはじめ財務諸表に出てこないような領域が企業価値となる

 1984年に日本電信電話公社(現NTT)に入社し、法人営業を中心に担当してきて、2007年に同じグループのNTTコムチェオの代表取締役社長を務めることになりました。その時、従業員にどう働いてもらうのかが大事だと考え始め、労務コンプライアンス等の勉強を兼ね、社会保険労務士の資格を取得しました。それから、NTTコミュニケーションズでOCNサービス部、第四法人営業本部等を担当し、NTTコム ソリューションズの代表取締役社長を経て、2020年から現在の日本情報通信株式会社 (以下、NI+C)の代表取締役社長を務めております。

 NI+Cは、1985年にNTTと日本IBMが合同でつくった会社でして、それが2020年に株主持株比率が変わり、NTTの連結子会社化することになったタイミングで、社長のバトンを受け取りました。着任した当時はコロナ禍真っ只中で、オフィスに来ても誰もいないんですよね。この会社で、どういった方針で何に取り組んでいこうかと、ひとまず関係者から話を聞いたり、自分で調べたり、色々と考えました。その中で、『THE HAPPINESS ADVANTAGE(和書名:幸福優位7つの法則 仕事も人生も充実させるハーバード式最新成功理論)』と『Reinventing organizations(和書名:ティール組織)』を読んだことが、人的資本(ハピネス)経営の実現を目指すきっかけとなりました。

 なぜ今人的資本が注目されているのかというと、日本の競争力の低下が背景にあります。投資家が企業の何に注目しているかというと無形資産です。つまり、財務諸表に出てこないような、人的資本、特許、ブランド、あるいは顧客ベースといった数値化できない領域が企業価値となるのです。むしろそこを見ないと企業の将来性や成長性が評価できないとなっているわけですが、日本企業の多くは時価総額に占める無形資産の割合が低いという状況です。

 人的資本経営の実現に向け、私が自社で取り組んでいこうと考えたポイントは以下のポイントです。

 ・社員が健康で幸せに働ける会社にする(健康経営)
 ・自律した社員の育成、アジャイルな会社への変革
 ・新たな技術に対応していくリスキリングの推進
 ・信頼、尊重、感謝、賞賛する企業文化へ
 ・会社への信頼と誇り
 ・自己完結的な組織マネジメント力の強化


 着任後に、変革へのドライバーとなるのは2つのボードミーティングを立上げました。1つ目の次世代ボードユニットでは、次世代を担う担当部課長をアサインして、週1回集まり、経営課題に対し討議等を通じて対処策を検討、施策を実行するというユニットです。もう1つは社内の技術的に尖った人材を集めた技術アドバイザリーボードです。次世代技術の目利きから、リスキリングプログラムの作成・実行、啓発活動までを担っています。2つのボードを通じ、参加する社員は経営者目線や経営判断のコンテクストを理解することができ、私自身は現場の課題や意思決定に対する反応を把握することができています。

いい会社には「働きやすさ」と「働きがい」の2つが必要

 人的資本経営では、まず、社員の幸せを第一に考えます。経営資源を従業員エンゲージメント向上のために使うと、従業員がHAPPYになって、顧客サービスレベルが向上します。そうして、お客様がHAPPYとなり、顧客ロイヤリティが高まることで、企業成長や利益拡大につながります。さらにそれを社会貢献につなげることで持続可能な社会が実現し、社会そのものがHAPPYになる。そういうプロセスを回していこうと、ビジネスモデルへ組み込みました。その中で大事なことは、「働きやすさ」と「働きがい」です。いい会社というのはこの2つが必要です。

 「働きやすさ」に向けたアクションとしては働く場所、時間の制約を取り除くことから始めました。コロナ禍でリモートワークになって、会社にいるより良い環境で働けるようにしないと生産性は上がらない、ということで、リモートワークであったらいいものを社員アンケートで調べ、ディスプレイやオフィスチェアなどを会社から貸与しています。お客様との紙の資料のやりとりのために出社しているという社員がいたので、紙のやり取りを徹底的にデジタル化しました。旅費精算の手間も、法人カードからチャージするモバイルSuicaを活用して省きました。


 リモートワークを基本としつつも、出社したときは部をまたがってコミュニケーションを取りやすくするため、オープンでカジュアルなハイブリッドワークに適したオフィスへとリニューアルしました。また外出時はサテライトオフィスも使えるようにしています。更には地方で暮らしながらリモートワークができる「どこでもオフィス」という制度も導入しました。数週間単位で実家への帰省時やワーケーションに使える「Chotto」という短期モデルと、本格的に地方に移住してリモートワークをする「Zutto」という制度を用意しています。500名以上が制度を利用していますが、親の介護などの理由で「Zutto」を利用している社員も10名程度います。
 また、気軽に相談できるように生成AIも導入しており、特に若い世代は積極的に活用してくれています。
 リモートワークについての自社での調査結果では、生産性が上がったという社員は多いですが、上司と部下の縦のラインはコミュニケーションが取れているものの、横のラインの同僚や他部署の社員とのコミュニケーションは薄くなっているという結果が出ています。部署をまたがった社員同士のコミュニケーションを誘発する仕組みを現在進行形で模索しているところです。


 次に「働きがい」ですが、成長の実感、職場での良い人間関係、他者への貢献が重要だと考えています。まずは会社としては個々の技能を伸ばしていくことで、成長を実感し自己肯定感も高めることができると考え、リスキリングの仕組みを作りました。全社員が学び放題という状況にした結果、第3期目を迎えた現時点で1051という数の新規資格を取得しています。特に力を入れているアジャイル開発の資格を保有する社員はすでに4割いて、そうしたアジャイルな仕事の進め方で生産性も上がっています。キャリアの方向性に悩んだ際には、社内外のコンサルタントに気軽に相談できるよう、キャリアコンサルティングサービスも試験的に始めたところです。社内コミュニケーションを活性化する上で重要となる1on1ミーティングについては、どういうコミュニケーションをそこで取るべきかを学ぶ研修を管理者に受けてもらっています。また、お互いに感謝し、賞賛し、励ます文化を醸成するために、「幸せ行動規範」を制定したり、サンクスポイントの仕組みも導入しています。

世界初のSRA準則のISO30414第三者保証の取得により高まる意識

 人的資本情報の開示についてご説明しますと、私が着任する少し前くらいから、人事担当が情報収集をして、セミナーに出るなどの準備を始めていました。2021年に11の人的資本メトリクスの調査をしまして、BSI(英国規格協会)グループが主催する会にも参加しました。そして、2023年4月に、SRA準則(AA1000)に基づく人的資本情報開示の国際基準ISO 30414の保証をBSIグループジャパンからいただいたという流れです。SRAに準則したISO30414の第三者保証というのは、世界初の事例だとBSIの方に言われました。

 11の人的資本メトリクスの中には、58の項目があります。もちろん、都合の良いところだけでなく悪いところもしっかりデータとして出します。そうやってこのレポートが信憑性を持つわけですし、それを出すことによって自分達の改善しようという意識も高まることになります。当社では、OODAループを応用しています。リモートで見えにくくなってしまった従業員の現状を少しでも正確に把握するため、各種ツールを活用しながら、EX(従業員エクスペリエンス)サーベイを目的別に行います。OODAループでいうとObservation(観察)です。そこから、Orientation(方向付け)して、Decision(決定)をし、Action(行動)をして人的資本経営に応用していくということです。


 そもそも当社は非上場企業ですし、なにか義務があったわけではありません。ただ、やはり、DX人材確保が非常に難しい状況ですので、当社が「人を大切にし、育てる会社」であるというメッセージを採用市場に発信する上で有効だと考えています。




[CrossTalk]女性活躍推進は制度だけでなく意識の変化も必要

秦:女性管理者の比率について、なかなか上がらないという社会課題が聞かれます。何か特別に取り組まれていることはございますか?

桜井様: 私が着任する以前から管理職になる際に上限年齢設定というものがあることが分かり、年齢問わず評価できるように変えました。女性が育休を数回取って上限年齢に達しましたとなると、もう永遠に管理職になる可能性が無くなってしまいますよね。意外と細かく見ていくと、そういう足を引っ張るような制度がいまだにあるんじゃないかと思います。ですが、ハンデを取り除いたのでぜひ管理職となってくださいと伝えたとしても、私には早いですと引いてしまうケースもありました。やってみたらどうにかなるよという風に背中を押すような仕組みも必要ですし、そもそもの意識を変えていくことも同時に必要なんだろうなと思います。男性の育休取得に関しても、夫婦揃って同じ職場とは限らないので、1社だけの取り組みで終わらせるのではなく日本全体で考えていかないといけないと考えています。

参加者:当社は女性従業員の数が多いのですが、女性管理職の割合は低いです。女性に率直にそういう開示について意見を聞いたら、そもそも女性に特化すること自体がナンセンスだと言われました。元々制度としては、男女平等を理念に掲げていて制度もあります。桜井社長がおっしゃったように、タイミングは人それぞれなんですよね。男女を区別するのではなく、フラットな制度づくりにきちんと取り組めば、そういう日本の状況も変わってくるんだろうなと思います。

[CrossTalk]リモートワークは従業員と会社との信頼関係が第一

秦:リモートワークが浸透したことによって、良い面もありますが、課題について深掘りしてもよろしいですか?見えなくなったことで、労働時間管理が難しくなったという経営者は結構いらっしゃると思います。そのあたりで取り組まれていることがありましたらご教示いただきたいです。

桜井様:コロナ禍前は勤務表と入退室ログで管理できていましたが、リモートワークでは入退室ログの代わりにPCのオンオフを見ています。特にリモートで時間を忘れて長時間労働になっていないかは確認する必要があります。リモートでは自律的な時間管理が社員にも求められてきます。リモートだとサボっていないか心配だという経営者の方もいるかと思いますが、そこは従業員と会社との信頼関係を第一とすることにしています。
 過重労働対策にも力を入れており全管理者に半日のセミナーを行いました。また9割以上の管理者がメンタルヘルス検定2種を取得しています。また、先日「勤務間インターバル宣言」を実施しました。終業時刻から次の始業時刻の間に、11時間の休息時間を設けることで、従業員の生活時間や睡眠時間を確保しようとするものです。やはり、睡眠休養をしっかり取って、正しい判断ができる状態で仕事をしないと、生産性も上がりませんしね。

秦:リモートワークの比率は基準を定めていますか?

桜井様:コロナ禍では、7割以上にしようとして結果として8割以上が続いていました。現在は、自身が一番働きやすい、生産性が上がる働き方を選んでくださいという風にしています。

参加者:8割!すごいですね。今の日本は、働き方改革に特化し過ぎているのかなという印象があるのですが、生産性を上げるために何が必要か考えることに特化した方がいいと考えています。そのあたりはいかがですか?

桜井様:コロナ禍でリモートワークをやる中で考えたのは、会社とは会社のオフィスが物理的な価値を持つのではなく、社員同士の脳がサイバー空間上でつながって、共同的で知的な生産をするということなんだということです。
 生産性でいうと、リモートワークと対面にはそれぞれ長所、短所があります。リモートワークは1人でやる業務はもちろん向いているといえますが、みんなで考えを持ち寄ってブレインストーミングをするような場面ではまだ、対面でのやり取りの方がいいように感じます。ただ最近はリモートでアイデアを創出するようなツールがかなり整ってきていますし、場合によっては対面でやるよりも効率よく新しいアイデアを生み出すこともできるんじゃないでしょうか。また、生産性を上げる鍵の一つは無駄なことをやってないかとゼロベースから突き詰めていくことでは無いでしょうか?前からやっているからとか、規定がそうなっているからという考え方を疑うことから始める必要が有ります。また、これからの助っ人は生成AIになってくるのかなと思います。どんどん進化してきていますから、あとは自分達でどう使いこなしていくのかというフェーズに入ってきていると感じますね。

  • ※本記事は2024年1月時点の内容です


ワークスアプリケーションズについて

ワークスアプリケーションズは、1996年の創業以来、日本発の業務アプリケーションのパッケージソフトウェア会社として、主に国内の大手企業向けに製品・サービスを提供してまいりました。「働く」の概念を変え、仕事をより創造的なものへ、企業の生産性を高め、企業価値を拡大する、この企業理念のもと、ERPを軸としたソリューションプロバイダーとして、大手企業に加えて中堅・中小・スタートアップ企業のDX推進のパートナーとなれるよう、さらなる発展を目指していきます。

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