- 株式会社ワークスアプリケーションズ > ニュース > 2024年 ニュース一覧 > 日揮ホールディングス 花田 琢也様の講演内容を公開 「CrossTalk “Wow!”」 実施レポート
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「CrossTalk “Wow!”」は、日本を牽引する各企業の方をゲストにお招きし、鮮度の高い、実用に供するテーマについて、自社や日本社会の革新を図るために実行されていることをご紹介いただくとともに、インタラクティブに熱く語り合う「Cross Talk(掛け合い)」イベントです。
参加者の皆様に、感動、興奮、驚きによって思わず「Wow!」と思っていただけるような考え方や価値観の共有を通じ、互いの成長を促す一助になることを目指しています。
今回の「CrossTalk “Wow!”」では、昨今企業にとって重要なテーマとなっている「人的資本経営」を、戦略人事の独自プログラム「船中八策」を掲げ具体的な施策を実践されていらっしゃる日揮ホールディングス株式会社(以下 日揮HD) 専務執行役員 CHROの花田 琢也様にご登壇いただきました。
本記事では、日揮HD様の戦略人事について花田様にお話いただいた内容及び同テーマについて交わされた参加者の皆様との「CrossTalk」をご紹介いたします。
■講演概要
テーマ: 経営戦略と連動する人事戦略 その要諦とは
~戦略人事の初期微動“船中八策”と“人財グランドデザイン”~
登壇者:日揮ホールディングス株式会社 専務執行役員 CHRO 花田 琢也 様
花田様ご略歴
日揮ホールディングス株式会社 専務執行役員 CHRO
1982年、日揮株式会社に入社、海外プラントPJにエンジニアとして参画。2002年にNTTグループと「トライアンフ21」を設立しCEO就任。その後、日揮のアルジェリア現地法人CEO、事業開発本部長、人財・組織開発部長を経て、2018年、日揮グループのCDOに就任。2021年に日揮グローバルのエンジニアリングセンタープレジデントを務め、2022年4月より現職。
モデレーター:エクスポネンシャル・ジャパン株式会社 COO 齋藤 和紀様
これからの人事は“天動説型”から“地動説型”組織へ
今回はCHRO(Chief Human Resource Officer)として、日揮グループがチャレンジしている人的資本経営への取り組み方についてお話させていただきます。日揮グループは、1928年の創業から、産業や社会の基盤を支える存在として「エネルギーと環境の調和」という課題を中心に取り組んでまいりましたが、脱炭素をはじめ我々を取り巻く環境は随分と変わってきました。そんな背景により、ビジネスの矛先なり幅なりを変えていくため、2021年に長期経営ビジョン「2040年ビジョン」を策定いたしました。そして現在、戦略人事を実践していく上で、8つの重点プログラム「船中八策」を掲げ遂行しています。まず、「経営戦略と連動する人事戦略」についてお話します。
CHROに就任してまず組織面からしっかり管理をしていくため、人事戦略の最高推進機関としてHRO(Human Resource Officer)会議を組織内に組成しました。HROには、その事業会社の中で、経営的な意味で権限がある各事業会社の副社長クラスを任命しました。今までの人事というものは、どちらかというと周囲からの明確なWantsを受け、それらを的確にこなすという“天動説型”組織であったと思います。しかし、これからの人事は、人事戦略という考え方で、経営戦略と連動させていくことが求められています。つまり、人事そのものが事業毎のSeeds(生産する側の求めるもの)を把握し、自ら考え動く“地動説型”組織へ変わっていく必要がありました。
HRO会議は、経営戦略を人事戦略へ落とし込む方法を話し合う機関でもあります。CHROと人事部長とでは基本的にはミッションが異なります。人事部長はHRO会議の事務局長として出席します。経営戦略を人事戦略へ因数分解するところまではCHROの責任下で進め、人事戦略の実践以降は人事部長に任せるというデマケーション(境界)で、物事を進めています。これが、「経営戦略と連動する人事戦略」です。
人財ポートフォリオ策定が一丁目一番地となる
HRO会議で重要な人事面での課題を挙げていったところ、ちょうど8つの課題が挙げられました。そこで「船中八策」という、坂本龍馬が打ち出していた明治維新のような“変革”を表す名称にしました。社員一人ひとりに当事者意識を持って「ジブンゴト化」してもらうためにも、親しみやすい名称にしたいと考えたからです。
この8つのプログラムの中で、一丁目一番地は「①人財ポートフォリオ」です。その後に「②人財採用戦略」、「③人財育成戦略」、「④グローバル人事制度」、「⑤タレントマネジメント」、「⑥サクセッションプラン」、「⑦リテンション」と最後に「⑧エンゲージメント」へと繋がっていきます。今回はその中から、「①人財ポートフォリオ」と「②人財育成戦略」、「⑧エンゲージメント」の3つをピックアップしてご説明いたします。
日揮グループ「船中八策」のマトリクス
まず当社グループの「2040年ビジョン」をベースに、2030年を一つのマイルストーンとして「①人財ポートフォリオ」を策定しました。いかなる分野でどれだけの数字をビジネスで築いていくかを想定した経営計画において、どのような人財がどれだけ必要かということを表しています。人財タイプはマトリクスで分類しています。現在のプロジェクト遂行に関わっているような「遂行人財」、「経営・マネジメント人財」、「高度専門人財」と新しい事業に関わる「イノベーション人財」の4つです。どのレベルで何名の人財が必要かを見える化した上でモニタリングし、中期経営計画を策定するタイミング等でしっかりローリングしていかなければならないと考えています。人の量が不足していれば、採用をする、質が不足しているのであれば育成あるいはエンゲージメントレベルを高めることでこのポートフォリオを達成していくことがテーマです。
四重奏によるアプローチで人財育成をサポート
次に「②人財育成戦略」です。様々なレイヤーが存在する中で、何から何まで研修ばかりでは社員も大変です。企業として、4つのテーマを中心に育成計画・戦略を立てましょうという意味で、私共は四重奏と表しています。
まず、第一バイオリンは、経営と社員の結節点となる「部門長」です。部門長が求められていることは、経営戦略を受け、自身の部門がきちんと3年、5年後にそのミッションを果たすような体制にしていくことを踏まえた上で、経営戦略に基づいた運営方針を作り、組織設計をし、それらに注力することです。そこに、人財育成や大きなプロジェクトへの人のアサイン(配置)も加わってきますが、それでは部門長も疲弊するばかりです。そこで当社では部門長の仕事を進化させる形で3つに分立することにしました。教育・キャリアはCDM(Career Development Manager)、プロジェクトへのアサインはPCM(Project Coordination Manager)と、2つの役職を新たに設けたのです。
そして、第二バイオリンは、「サクセッサー」(次世代の経営者)。人財の価値という点では、知識と能力、そしてやはり資質が重要です。この3つのバランスを最適に持てるよう、サクセッションプランを考えました。
次に、ヴィオラは、「キャリア採用者」です。流動化等を背景に、現在、当社の新規雇用の40パーセント強がキャリア採用となっています。以前は周りにいる多くの生え抜き社員がキャリア採用社員を教えられる環境でしたが、今はキャリア採用の社員が多く、一方でオンボーディングプログラムが整備されているとはいえず、自身の良さをすぐに発揮できる状態とはいえません。そこで、同期入社を集めて、「日揮とは?」という基本を学ぶ機会を設け、あとは横の繋がりという意味で懇親会等を後押しする「Networking Program(Nets Hubと命名)」という施策を実施しています。ビジネスの繋がりが縦とすると、それ以外の横や斜めの繋がりをしっかり作ることで、学びの幅を拡げることができるからです。
そして最後を奏でる、チェロは、「リスキリング」です。今私共が取り組むエンジニアリングにおいても、DXによって一定の部分はデジタルでできるようになり、コモディティ化されてきて、いずれは一つの領域だけでは足りなくなる、つまり今後のエンジニアリングにおける課題は「バーサタイル・エンジニア(多能化)」です。昔は10年たったら一人前のエンジニアとされていましたが、それでは間に合わない。今若手のエンジニアの新入社員は3年で一つの領域をやる、それが自身のバックグラウンドとなり、4年目以降はまた異なる領域で経験を積む。そういったローテーション「Baysix制度」を3年前から実施しています。
話を「船中八策」に戻しますが、「船中八策」の最後は「⑧エンゲージメント」です。エンゲージメントレベルをいかに上げるか。当社のパーパス(存在意義)の「Enhancing planetary health」を認識できていても、社員は何を変えればよいのかが見えていないのではないかと考えていました。そこで、企業のパーパスと社員個人のパーパスをマッチングさせ企業のパーパスを「ジブンゴト化」するための”パーパスジャーニー”という取り組みを2021年頃から始めました。もちろん、企業と個人のパーパスを完全に一致させるのは基本的には無理があると思っています。ただ、いずれもいくつもの要素が掛け合わされている “n”次方程式であるわけで、因数分解をして、共通の因数を見つけるようなことを各人がパーパスジャーニーの中で取り組むことで、企業における自身の価値が何か、自身が企業の中でやらなければいけないことは何か、そういったことが浮き彫りになってくると思っています。これが企業と人とのパーパスをマッチングさせるジャーニーです。
以上、「船中八策」を紹介させていただきました。
[CrossTalk] 各企業が取り組む戦略人事
モデレーター齋藤:非常に幅広い領域における知見と経験を感じるお話でした。ではご参加の皆様からご感想を伺ってまいりたいと思います。
参加者A:人事の領域で、ここまで分析と整理がされているお話を初めて聞いたかもしれません。当社はイノベーションをやろうという中で、2つの仕組みが動いています。まず、経営を目指す人間全員が週報をお互いに見れるようにトップに報告する仕組みがあります。その中で企業のパーパスが常に見えて、コミュニケーションが取れる状態を重視しています。2つ目に合宿をやっています。泊まり込みで、ある程度のサイクルでコミュニケーションを取って意識合わせをしています。企業文化ですね。サクセッションとして、残すための仕組みが日揮さんのように体系化されると良いなと思いました。
参加者B:日揮さんでは、新卒と中途採用との違いがあったり、中途採用に対するフォローは特別にされていらっしゃいますでしょうか?
花田様:いわゆるオンボーディングプログラムはやっています。これまでは正直なところ手薄でした。傾向として、1~2年目は自分の価値を模索するものの、3年目以降で辞めていく。それは日揮の良さを理解できていないことも原因にあるのではないかと感じて、オンボーディングプログラムを整えました。日揮という会社のDNAの理解が重要だと思い、新たなメニューに組み込んでいっています。
参加者C:人財のプロットを私共もやろうとしていますが、まだ道半ばです。どう人材を育成していこうかというところが課題になっています。
花田様:サクセッションプランにおいて、経験からくる知識、プロジェクトマネジメント能力、それから資質がありますが、私自身も最近になって資質の見える化が本当に大切だなと感じています。コンピテンシーは資質と能力に分解すべきだと思うんですよね。資質は、体力、影響力、洞察力、好奇心など様々です。我々が社員の資質をしっかり見ていないといけない。適材適所という考え方もこれからは必要だと思っています。どこに話を聞いても能力と資質が掛け算になっている。資質だけを抽出、見える化できるようになりましたら、また皆さんとシェアしていきたいと思います。
齋藤:では、現場に近いところのお話でしたが、開発人事のご担当者様にも状況を伺えればと思います。
参加者D:当社はコロナ禍後、会社の方針に基づき、全体的に出社推奨をしている状況です。サービス提供するビジネスもありますし、対面でないと、コミュニケーション含め、イノベーションが生まれにくいという見方があるためです。
齋藤:日揮さんはいかがですか?
花田様:基本的にコロナ禍は関係なく、ある程度はリモートのマネジメントが必要な業種です。エンジニアリングも本社に基本的な領域は固めますが、海外子会社で詳細領域は行います。ただ、日本国内の本社では原則は100パーセント出社です。プロジェクトをまわしていくには立体的なコミュニケーションやコミュニティが必要になりますからやっぱり出社してF2Fで議論することは必要ですよね。
参加者E:私共はIT企業ですので、共通するのは人こそが財産だというところで、社員や人の育て方、エンゲージメントが本当に大事だと思っています。いわゆる社員の満足度が健康経営において非常に重要だと考えています。うちは、コロナ禍を終えても70パーセントがリモートワークです。とにかく一番効率の良い働き方でやってくださいというスタンスです。そういう制度を会社が持っているということが社員にとってはありがたいという側面の方が強いです。離職率が高いといわれるIT業界においても、私共の企業の離職率は2パーセントです。ただ、縦の組織のコミュニケーションは週に一度は集まる等できてはいますが、課題は横の繋がりですね。月に一回会社に集まってビアサーバーを置いて懇親会をしたり、去年は誕生日会をやったりしていました。あとは、リスキリング、すごく大事ですよね。当社も資格取得は推奨しています。
齋藤:せっかくなので色々な方にお話を聞きたいと思います。ご質問のある方お願いします。
参加者F:特に感心したのは、人事制度をあそこまで因数分解できると仰っていた点です。欧米の企業の日本法人の仕事をしていた時もあり、感じているのは、日本企業は欧米の企業と比較すると圧倒的に従業員にお金をかけないんですよね。欧米では従業員のパーパス達成のために投資を惜しまないという印象がありました。お伺いしたかったのが、縦と横、斜めの筋交いというお話をされていらっしゃいましたが、筋交いとはどのようにするんでしょう?
花田様:まず、施策を因数分解に例えましたが、実は今まではあまりできていませんでした。だからこそ今、取り組めているんだと思います。サクセッサーについても、人による感覚が基本でした。また、当社はプロジェクトをベースに動いていますが、プロジェクトマネージャーには定められたゴールがあり、経営者の環境とは少々異なります。従って、その違いを打破しないといけなかったこともあり、サクセッションプランの必要が生じたたんです。もう一つは、確かに日本の企業は育成に対する投資が少ないかもしれませんが、一方で人が人に教えるという文化があります。仮に他企業であっても、技術の伝承のようなものを自然体でできているところがあると思いますので、諸外国との比較は単純ではありません。筋交いは斜材の一つです。例えば、プロジェクトを組成するとメンバー間では実務を通じて自然と斜めの関係が醸成されます。あとは飲ミュニケーションを経てのコミュニティでも可能だと思います。
参加者G:当社では、人が財産であることは認識しているものの、効果的手段が見つからず、若者の離職率が高いことが課題となっています。なにか対策、若手に対する教育がありましたら教えていただきたいです。
花田様:これといって特に若手を中心とした特効薬はありませんが、3~5年目の若手、特にコロナ禍に入社した社員については、横のつながりが希薄だということで先ほどのネットワーキングプログラムを実施したり、同時期のキャリア採用の社員には前半でご説明したパーパスジャーニーを併せて行ったりしています。実は、当社では創立以来90年間、文系の人間が人事部長をしていました。ただ、社内の80パーセント以上の社員がエンジニア(技術系)です。戦略人事を強化していくとすれば、エンジニア出身の人間がエンジニアを叱咤激励していく必要があるという背景から、私が人事部長を拝命することになりました。正直なところ、私の勘と経験と度胸だけでは人を育てるには限界があるということから、「HRO会議」や「船中八策」などの施策に辿り着いたわけです。従って、まだまだ道半ばです。
※本記事は2024年11月時点の内容です
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