経理財務 ✖ 〇〇〇 経理財務視点からみるトレンドワード:第四回 経理・財務 × “自動化”

経理・財務部門が対応を求められる領域は年々広がりを見せており、従来の日常業務に加え、多角的な視点や情報収集スキルなどが求められるようになっています。本企画記事では、そうした時代の変化に伴って注目を浴びるトレンドワードを毎回取り上げ、経理・財務領域に精通されている日本CFO協会主任研究委員 櫻田様のインタビューを通じて掘り下げていきます。経理・財務をご担当される皆様が、日々の業務において新たな視点やアイデアを得るきっかけとなれば幸いです。第四回目のトレンドワードは「自動化」です。
ゲスト:櫻田 修一 氏
一般社団法人日本CFO協会 主任研究委員
株式会社アカウンティング アドバイザリー
マネージングディレクター/公認会計士
目次
◆経理・財務部門の人材の時間が企業にとっての価値となる
第四回目のテーマは「経理・財務 ✖ “自動化”」です。
これまで経理・財務の部門では効率化が求められてきましたが、現在はテクノロジーの進化とともに、自動化へと推移しています。最初にその背景について見解をお聞かせいただけますでしょうか?
効率化ではなく自動化を目指すべき主な理由は2つあります。まず、直接的な理由として、アプリケーションが進化しているということ。アプリケーションの機能を様々に活用するだけで、処理を自動化できるということが現実になっているからです。デジタルで取引を完結させようという意識や環境も全体として整いつつあり、時代の流れとともに、大分変わってきたと思います。D2D(Data to Data)で、紙ベースではなくデジタルでデータが入ってくれば、直接アプリケーションで受け取って自動処理に繋げることができ、入力の手間が無くなる、あるいは最低限の入力で処理することができます。
間接的あるいは本質的な理由として考えられるのは、経理・財務部門への経営からの期待の高まりです。月次、四半期、年度決算を実績として締める役割だけでなく、定数を活用してビジネスをサポートし、事業を推進する役割を期待されるようになっていることが背景にあります。社会、経済、そして環境が目まぐるしく変化する時代だからこそ、視野を広く持つ必要があり意思決定上、考慮しなければならない変数は増加し、変化していますします。そのため、ベースの情報として定量化できるものは定量化し、指標を基にマネジメントしていこうという考えが浸透しつつあります。いわゆるデータドリブン経営です。定量化された経営に関わる業績データをつかさどるのは他でもない経理・財務部門です。そうはいっても、コスト面、また労働人口の減少やIT人材不足が社会課題となる中、経理・財務部門においても人員を増やすことは容易ではありません。やはり、テクノロジーを活用することで月次や年次の締め作業の自動化を推進する等、経理・財務部門の人材がビジネスに充てる時間をいかに作ることができるのか、それが鍵となります。そうした経理・財務部門に身を置く人材の時間こそが、企業にとっての価値となってきているわけです。
しかし現実問題として、自動化は必ずしも進んではいません。現状から変わりたくない、変えたくないという、日本の組織における根本的な問題ともいえる変化に対する抵抗が大きいのではないかと考えています。また、人的資本経営において必要となるリスキリングの視点からもデジタル、ITに対する理解は十分ではないでしょう。一方、ERPや会計のシステムはどんどん進化をしてきています。例えば、ワークスアプリケーションズのERPパッケージ「HUE」では、ノーコードで7,000項目近くの機能を設定したり組み合わせたりしてユーザー自ら必要な機能を選び構築することが可能となっていますよね。昨今、システムの重厚長大化や老朽化の問題を背景に、複数のソリューションを組み合わせて構築する「コンポーザブルERP*」というモデルが主流になりつつありますが、「HUE」はまさにそのコンセプトを具現化していると言えるでしょう。また今は生成AIとの連携も加わってきていますよね。そういった新しいコンセプト、テクノロジーを企業が取り入れていくためには、ある程度の勉強が必要ですが、向き合うことなく何もしなければ、企業の競争力さえ下がってしまいます。JTC(Japanese Traditional Company)と呼ばれてしまう所以でしょう。
*コンポーザブルERP:複数の機能部品や要素を組み合わせた構造で、かつ変化に合わせて柔軟に機能部品を組み替えられるERP。ERPに限らずコンポーザブル・アプリケーションと広義に捉える場合もある。
◆会計システムの基本を理解し、データを読み解く学習機会は必要
経理・財務部門の立場からいうと、自動化による弊害は業務のブラックボックス化です。D2Dを目指す上での自動化推進において、経理・財務部門のスキルや理解をどのように高めていくべきか、多くの企業が悩むポイントかと思います。確かに、すべての処理が正確に自動化されていけば、一つひとつの処理を見ることがなくなります。そうなると取引をどのように処理し仕訳を生成、転記して会計処理をするのかを学び得ることが困難になります。簿記3級で習う帳簿組織が会計システムの基本でもあるので、その知識がベースとなり、その上で現実にはシステムを通して会計データを見ること、自動化されたデータを読み解くという学習機会を意図的に設けることが必要になってくると考えます。またはシステム導入や更新といったITプロジェクトに、必ず経理・財務部門の担当者を参画させて、自分事として自動処理の部分はすべて業務設計を把握させることも必須です。
IT化・自動化が進めば当然に決算・開示に必要な情報や、取引先への支払など、会計業務の大部分をシステムに依拠する事になります。それ故、特に自動化では、しっかりとしたシステム上のデータ構成、厳格なマスタ登録や取引の標準化がポイントになってきます。
例えば、HUE ERPとMicrosoft Copilotを連携させた「取引先与信チェック」アプリケーションでは、取引先マスタに登録された実績データをシステム上で簡単に参照できます。初めての取引先についても、与信判定をどのように進めるべきか、マニュアルに基づいてサジェストしてくれます。
【HUE×Copilot Copilot Studioで作成された取引先与信チェックアプリ】
ERPとCopilotを連携させることにより、チャット形式で与信チェックが完了できるようになる。取引実績に応じた与信判定はもちろん、参照させるファイルを限定させるなど、企業のルールに則りCopilotを調整することも可能。
自動化は予め定められたルールによる処理なのでコンプライアンス対応の強化も大きなメリットの一つです。また、自動化を進めるタイミングとしては、部分的な対応にとどめるのではなく、会計システムや基幹業務システムの更新時に一括して検討するのが理想的です。しかし、こうした大規模なシステム刷新の機会は通常、5年~10年に一度程度しか訪れません。
そこで、既存システムを活かしながら必要な部分を柔軟に追加・変更できる方法を取り入れることで、効率的に自動化を進めるアプローチも選択肢の一つです。例えば、経費精算や電子請求書の発行・受領サービス、さらにはAI-OCRを活用したデータ入力の効率化など、特定の業務機能を担うSaaS(Software as a Service)を導入し、システム間の連携を図ることで、取引プロセスの自動化を段階的に進めることができます。
◆自動化を経て経理・財務が担うのは「未来に向けての業務」
経理システムの進化による、経理・財務部門の展望や在り方の変化についてはいかがでしょうか。
ERPや業務アプリケーションといったシステムを導入する上で、アドオン開発やモディフィケーションといわれる個別開発は、必要性が薄れてきています。今は、標準の設定だけで様々な機能が自在に使えるようになってきているからです。HUEがそれをよく体現しています。専門のコンサルタントに都度依頼をして設定するのではなく、ユーザー自ら設定していくことができるUI・UXには、アプリケーションベンダーの進歩を実感しました。ユーザーが作る喜びというか、やりがいを得られる仕組みに近いのではないかと思います。それこそ近い将来、生成AIとの連携によって、会話をしながらアイデアを得て、数ある機能を組み合わせ、今より負荷なく設定していけるようになるのではないでしょうか。
工数のかかっていた業務をアプリケーションやAIが担ってくれることになった後、経理・財務部門は結局何をやるのかという話に戻ります。なんのために時間を作り出したのか、それは「未来に向けての業務」を担うためです。過去から取り出したデータを基に、マーケットの展望を導き出し、先手を打っていくという発想です。
◆データをつかさどる立場として経理・財務部門が今後求められるスキル
そうした変化の中で、これから経理・財務部門に求められるスキルについてお聞かせください。
ベースはやはり会計や会計基準ですが、いくつかの方向性があります。一つは、多様なデータを使い、ビジネス部門と一緒になって将来予測も含めたシナリオを作り、どのように意思決定するのか、実現するのかを考え、推進していくビジネスのスキルです。二つ目に、システムに寄り添うことです。仕組みを理解しどのように変えていく必要があるのか、経理・財務の視点を持ってIT部門と一緒に考えることが求められます。三つ目に、データに対するスキルです。ビジネスサイドの要望を叶えるために、どのようなデータを企業内外を問わずどこから集めて、どのように分析すればいいのか、統計分析・機械学習を駆使する等も必要になるでしょう。
そして最終的には、業績に直結したデータ、すなわち財務会計情報をつかさどる立場として、横断的に様々な部署の人と仕事をすることになるので、ディスカッションをしたり、説明や意見をしたり、まとめ役を担ったりというコミュニケーションやリーダーシップといったヒューマンスキルが重要になってくると思います。
次回の「経理財務 ✖ 〇〇〇 経理財務視点からみるトレンドワード」は2025年3月頃の配信を予定しております。
※本記事は2025年1月時点の内容です