<特別座談会>
学校法人が迫られる変革とバックオフィス業務のDX化がもたらすメリット
- 学校会計システム導入を成功に導くポイントとは? -

<座談会参加者>

井口経営企画事務所
代表 井口 準 氏

大学卒業後、建材メーカーのトステム株式会社(現 株式会社LIXIL)に入社し、大手ゼネコンや住宅メーカー、
販売会社への営業を経験。その後、株式会社システムディにて26年間ソフトウェアを取り扱う仕事に従事し、
事業展開、製品企画から販路獲得に向けた戦略立案、営業現場での実務経験からマネジメントに至るまで
幅広い業務を遂行。2020年3月に経営活性化支援やITコンサルを中心とした事務所を設立し現在に至る。

 




   株式会社ワークスアプリケーションズ ・エンタープライズ

   代表取締役社長執行役員  執行役員     エンタープライズ営業本部 営業第二部
   宮原 雅彦        佐々木 拓     中嶋 龍太









コロナ禍による著しい社会環境の変化により、教育の現場においてはオンライン授業をはじめとしたDX化が加速度的に推進されることとなりました。そして、学校法人の経営においても同様に変革の時を迎えています。

1996年に創業した株式会社ワークスアプリケーションズは、日本の大手企業向けERPパッケージソフトウェアの開発を手がけ、これまでに2,200社以上へソリューションを提供してきました。2021年11月にはワークスアプリケーションズグループ(以下「ワークス」)の一員である株式会社ワークスアプリケーションズ・エンタープライズ(以下「WAPE」)が、学校法人のDX化を支援するべく「私立大学向けERPソリューション」の提供開始を発表しました。

今回、WAPE社長の宮原と「私立大学向けERPソリューション」に携わる佐々木・中嶋が、教育業界に詳しいITコンサルタントである井口氏を迎え、学校法人のDX化とその現状について意見を交わす座談会を実施しました。本記事を通じてその概要をご紹介し、ワークスが「私立大学向けERPソリューション」の提供に至った背景についても触れていきたいと思います。

少子化をはじめとした学校法人を取り巻く経営環境の変化

—はじめに、教育業界を取り巻く環境や学校法人が置かれた状況についてお考えをお聞かせください。

井口氏:
教育業界がコロナ禍の影響を受けていることは明らかですが、それ以前から少子化によって学校法人の経営環境はかなり厳しい状況に置かれていました。ただ、子供の数が減っているからといって帰属収入が単純に減っているかというと、そうとは限りません。1人当たりの教育にかける費用というのは実際のところ増加傾向にあります。そのため、結果的にそれほど市場全体が減速している訳ではなく、むしろ少し伸びている領域さえ見受けられます。

通学をする学生が減っているということは事実ですが、文部科学省の最近の調査(令和2年度)によると、高等教育機関(大学・短期大学、高等専門学校および専門学校)への進学率は83.5%と、年々上がっています。社会人向けの学習指導サービス等のリカレント教育といった生涯教育の分野も伸びてきており、家庭で使う通信教材や学習塾等の学校外活動費も、特に子供を私立の小中高に通わせている世帯において増加が堅調です。

つまり、学校法人の経営状況という面では、すべての学校で収入そのものが潤っているという訳ではありませんが、一部においては、社会人学習者数が増えていたり、一般の学生でも一部の高等教育機関で学生数が増加傾向にあったり、学内インフラの整備やオンライン授業の推進等のさまざまな時代背景があって上向きな領域もあるといえます。

DX推進によって変わる学校法人会計の予算の使い方

—経営状況のお話が出ましたが、学校法人の会計上の特徴というものは、例えば一般企業と比べてどういったところに見られるものでしょうか?

井口氏:
まず大前提として、一般企業と学校法人の大きな違いは営利か非営利かという点です。一般企業は自主努力により利益を上げることを目的とする営利団体ですが、学校法人は私立学校法に基づいて設立された法人であり、活動の目的が営利ではなく教育です。それゆえ、国から私学助成という経常費の補助金をもらって、基本的には利益を上げないという考え方で、国に定められた学校法人会計基準に従って会計処理をしています。

実は、今回のテーマであるDX化において、学校法人会計の中でどう変化が生まれているかという点でいうと、それほど大きな変化が生まれている訳ではありません。ただ、予算の使い方は大きく変化しています。

元々学校法人会計は予算会計と言われるように、基本的に年度毎に予算を立てて、それを基に厳格に執行されていくものです。予算を立てる時には、教育研究用の備品購入や施設整備といったものを、目的に応じた勘定科目に振り分けていきます。それが、従来であれば備品や施設に振り分けていた予算を、DX化に関わる事業目的あるいは勘定科目等で処理をすることになるので、内訳を変えていく必要があるのです。

さらに、国としてもDX化を推進しようという方針に基づいてDX化に関わる経常費補助金の追加や新たな補助金制度を制定しつつあるので、積極的に助成を受ける学校も増えています。


—学校法人のDX化はスムーズに進んでいるといえるのでしょうか?

井口氏:
進めようとしているけれども、まだ進みきっていない状態だと思います。先ほど触れたオンライン授業はコロナ禍により半ば強制的に進みました。GIGAスクール構想で初中等教育の端末整備は一気に進みましたが、端末上で利用する教育コンテンツの内容等、まだ手探り状態のところが多いようです。

法人運営に関しては、教員の教務支援システムの運用は浸透しつつあるものの、会計や経理、人事、管財管理といった職員の業務に関しては企業に比べてDX化に遅れが生じていることは明らかで、何からDX化すべきなのか分からないというような課題を抱えておられることが多いと思われます。例えば、RPAのような新しい自動化ツールを導入する場合にどの部署でどの業務に適応すべきか、組織体制をどう変えるべきか等の整理に苦慮されておられるケースも見受けられます。

そのほか、システムの選択肢はあっても内部統制がなかなか進まないというケースもあります。新たなシステムを導入しても、利用される方々の情報リテラシーの個人差もあり、利用率が上がらず結果としてシステムが陳腐化してしまうようなことが実際に起きているので、その辺りが大きな課題だと思っています。

会計業務のDX化が学校法人にもたらす利点

—課題を乗り越えてでも学校法人のDX化を図ることによって、会計業務という面では、どのような利点があるのでしょうか?

井口氏:
会計業務をDX化すると、予算申請状況や執行状況をよりリアルタイムで確認することができます。執行伝票を自動的に起票するような仕組みも入れられるので、例えば予算編成の段階で決めておいた仕入先と購入予定の備品項目を基に、仕入先のECサイトと直接連動させることで執行情報を自動で取り込めるようになります。加えて、その備品が納品されて検収してどこで管理されるのかという点もすべてシステム化することが可能で、作業の自動化や効率化だけでなく、架空の予算執行等の不正を防止する内部統制の強化に繋がることも利点の一つです。

—実際にワークスのERPパッケージを導入してDX化をされている学校法人のお客様の反応はいかがでしょうか?

WAPE佐々木:
井口様がお話された通り、学校法人における会計では、やはり予算統制に重きを置くため、当社の学校法人のお客様からは、予算編成を含む財務・管理会計をはじめ、購買、経費精算、固定資産管理といったさまざまな会計業務が一つのシステムで完結し、予算の統制を行えるところが魅力だと仰っていただいています。さらに、今回発表した「私立大学向けERPソリューション」では、お客様から要望のあった学納金や研究部門における研究費の執行状況についても機能拡張を予定しています。

WAPE中嶋:
システムを使った効率化という面でお話しますと、多くの学校法人では紙・ハンコ文化が根強く踏襲されている印象があります。一方、すでに当社システムを使って業務効率化を図られている学校法人様では、例えば教員様が実際に物品を購入する申請を出す場面に際し、教員様がシステムに入力し職員様がその内容をシステム上で確認できるようになり、購入申請から発注を経ての受取と検収まで、一連の流れの業務効率化と一元管理ができるようになっています。特に最近のトレンドでは、Amazon BusinessをはじめとしたECサイトと財務会計システムを連携することによって、予算管理の適正化や教員様の利便性向上をご要望いただくことが多くなってきたと感じます。物品購買業務はもちろんのこと、経費・旅費精算申請までをオールインワンで網羅し全学的な業務効率化を支援するシステムとして、ご活用いただいております。

システム導入成功のポイントは教職員の意識合わせと共通の目標定義

—会計業務のDX化を目指したシステム導入で、参考となるような事例はありますでしょうか。

井口氏:
ある学校法人様では、物品調達を個々に調達サイトを利用した発注や、業者に直接発注をする形で管理をされていました。ある時これを集約するため事業会社を設立されたんです。その事業会社で、物品調達をする際にECサイトとシステム連携をして、予算執行状況も部署毎にリアルタイムで追えるようにされました。事業会社を設置するという方法で、今までバラバラと学校法人の職員が行っていた調達業務を一本に集約したわけです。結果として調達のコストそのものを抑え、事務作業の効率も良くなっただけでなく不正防止にも活かせたというような事例です。

WAPE佐々木: 
なるほど、すべてがうまくいっている興味深い事例ですね。一方で、多くの学校法人が事業会社の設立といった思い切った手段が取れる訳ではないと思います。うまくいかなかった事例はありますでしょうか?

例えば、教職員様の業務効率化を目的として新たなシステム導入を検討しても、利用者である教員様にとって、慣れ親しんだやり方が変わることに対して理解を得ることができず、不満が高まってしまえば、それにより計画が頓挫することは有り得る話だと思います。現場の教員様と職員様の意見を捉えつつシステム選定や導入を進めることが必要だと考えますが、その際に留意すべきこと等、井口様の見解をお聞かせください。

井口氏:
おっしゃる通り、学校法人のシステム改革は実際にはうまく進まないというケースが大半を占めます。組織体制として教員の意見が強い学校法人では、教員の方々から支持を得ることができなければ、システムの変更が実現しません。そうした場合には、教員も職員も含めた委員会のようなものを立ち上げることを提案させていただいています。委員会という風通しの良い環境を作って、ここの業務フローでこういう風に業務効率化を図ればもっと研究に予算割り当てができるであるとか、学校全体のDX化が推進されればブランディング効果も出て結果として学生募集につながるであるとか、そういったことを地道に議論し合うことが大切です。

あとは、先程話に上がったシステム導入に伴ったペーパーレス化も、実際にシステムが稼働したものの、年齢層の幅広い教員からのペーパーレス化への抵抗感が消えずにシステムが使われずじまいで凍結してしまったというケースもありました。

組織としてどこへ向かっていくべきなのか、やはり学校経営の観点から教員と職員の意識合わせをしっかりとした上で従来の慣習にとらわれることなく共通の目標を定義しなければいけません。それがなければ、確実にシステム化もうまくいきませんし、結果として学生募集を含めた学校経営もうまくいかないと思います。

WAPE佐々木:
ありがとうございます。大変参考になります。

一般企業をターゲットにしてきたからこそ、法人運営のDX化を総合的に支援できるワークス製品

—ワークスはお客様へのシステム提供を通じて経営を支える立場にあります。お客様に提案を行う上でどういったところに特徴があるのでしょうか?  

WAPE佐々木:
当社の製品は元々大手の一般企業をターゲットに開発をしているため、財務会計の分野において幅広い機能を有しています。機能が多いからこそ、実際に使用される現場の方のお話を伺って、使うべき機能を選び取っていただいたり、お客様の状況に合った最適な提案を我々から差し上げています。内部統制の強化という面でも、大手企業でも採り入れられている内部統制に準じた構成が学校法人においても実現できます。他にも、ワークフローやチャットボットといったワークスのサービスをクラウド連携させることで、会計分野だけでなく法人運営のDX化を総合的に支援することも可能です。

また、元々日本の企業を対象とした製品ですので、日本の商習慣や法改正にも柔軟に対応できるという点が当社の強みだと考えております。先程もお話した通り、学校法人様のご要望を受けて新たに機能拡張を進めている領域もございます。今後も環境の変化に応じてさまざまな機能を、標準機能として提供し続けることができるように努めております。

—細やかなフォローアップというものは、学校法人の現場からも求められているポイントとなるのでしょうか? 

井口氏:
標準機能が学校法人の要望に合わせてどんどん拡張されていくことは、非常にフォローアップとしては良いと思います。

ワークスさんのシステムは、一般企業でずっと使われてきたということで多数の実績もお有りですし、標準機能の幅広さを活かした多くの選択肢のある製品ではないかなという風に見ています。一点加えるとすると、機能が拡張していくにつれて業務内容の整理が必要になるといいますか、学校特有の運用の仕方やメニュー構成のようなものがあるので、その辺りをうまく取り込んでいくことができれば、より強い製品になるのではないかと思います。

ニューノーマル時代に求められる柔軟性を持った学校の経営体制

—最後に井口様と宮原社長にお伺いします。
 本日のお話を踏まえ、これからの時代を見据えた学校法人のあるべき姿、そして今後の展望についてお聞かせください。
 

井口氏:
コロナ禍がきっかけとなるのですが、やはりニューノーマル時代に対応できる柔軟性を持った学校の経営体制が必要だと思います。経営においては、入学定員充足率が100%を下回る、いわゆる定員割れによって、資金面が厳しい状況にある学校法人も少なくありません。どのような目的を持って経営課題を克服していくのか、改めて学校全体で意識統一をしていく必要があります。明確な目的を持って突き進んでいく中で、学校法人のDX化がシステムに支えられながら実現することによって、適正な資金配分が成され、最終的には帰属収入の安定化も目指せるようになると一番良いですよね。

また、日本社会の在り方を考えると、就学機会を提供し続けるということは、実は一番大きな課題だとも捉えていまして、教育機関だけでなく一般企業を含めた社会全体で学校教育について考えていくべきだと思っています。

WAPE宮原:
井口様からもお話があった通り、教育現場のDX化はコロナ禍により推し進められることになりましたが、教職員の皆様が携わるバックオフィスにおけるDX化は遅れているのが現実です。業務の効率化を図り、利便性を向上させることこそ、我々の製品のコンセプトです。しっかりと学校法人様のDX化の実現を支援していきたいと思います。

ニューノーマル時代の社会変化に柔軟に対応していくという部分でも、我々が20年以上継続してきた「お客様の声で成長し続けるERP」というビジネスモデルを持って、学校法人様に向けたソリューションを提供していきたいと考えております。先ほど申し上げた内部統制といったところでも、我々は大手企業を中心に2,200社以上に提供してきた実績がありますので、実効性のあるシステムで、学校法人様のDX化を支援させていただければと思っております。

最後になりますが、当社では、我々とお客様、そしてお客様同士の情報共有や意見交換を通じて、製品の機能向上とお客様の業務効率向上の相乗効果を図り、相互の永続的な成長を目的とした「ユーザーコミッティ」というユーザー会を運営しています。学校法人様同士での意見交換やDX化に関する情報共有をいただく分科会も開設しています。また、業界の垣根を越え、一般企業様のお話を聞いて学校法人様の運営に活かすことも可能です。学校法人様がそれぞれに目指される目的達成を全面的に支援させていただくということが、当社のミッションであると思っています。

—本日はありがとうございました。

※本記事は2021年12月時点の内容です。