Web記事業務効率化
2025/12/01
経理財務視点からみるトレンドワード 第五回(最終回)
経理・財務 × あえて今AI 「AI活用が経理財務の未来につながる」
経理・財務部門が対応を求められる領域は年々広がりを見せており、従来の日常業務に加え、多角的な視点や情報収集スキルなどが求められるようになっています。本企画記事では、これまで四回にわたり、経理・財務を担当される皆様の日々の業務における新たな視点やアイデアを得るきっかけとなるよう、そうした時代の変化に伴って注目を浴びるトレンドワードを、経理・財務領域に精通されていらっしゃる日本CFO協会主任研究委員 櫻田様と共に取り上げてまいりました。最終回となる第五回目のトレンドワードは「あえて今AI」。ワークスアプリケーションズのAI開発担当者を交えながら掘り下げていきます。
目次
対談者

櫻田 修一 氏
一般社団法人日本CFO協会 主任研究委員
株式会社アカウンティング アドバイザリー マネージングディレクター/公認会計士
山本 起也 氏
株式会社ワークスアプリケーションズ ERP事業本部
今からでも遅くない生成AIのはじめ
本コラム最終回となる第五回目のトレンドワードは「あえて今AI」。ワークスアプリケーションズのAI開発担当者を交えながら掘り下げていきます。今回は、櫻田様に加えて、ワークスアプリケーションズでAI技術を活用した基幹業務システムの機能設計・実装に携わる開発本部の山本 起也さん にもご参加いただきました。
実際にAIを業務システムに組み込んでいる現場の視点から、経理・財務領域におけるAI活用の現実と可能性を伺っていきます。
櫻田氏:2024年頃から生成AIに関するニュースをよく目にするようになって、早々に使い始める人がいる一方、すごいツールが出てきたとは思うけど、仕事で使うのは。。。と傍観する人の方も多かったと思います。2025年に入ってからは実際に仕事で生成AIを使い始めている方も多くなり、生成AI活用の元年と呼ぶに相応しい年になりました。日本の企業においては、当然に業務で使っていくという空気感と、どう自社で取り組めばいいのか分からないという空気感のどちらもあると感じています。後者については、これから来年にかけて取り組むというのであれば、日本社会の変化に対するスピード感でいうと、必ずしも出遅れている訳ではないとは思います。しかしグローバルをみればやはり遅れてしまっていますが、それは今に始まったことではないですね。
企業の中でも特に、経理財務をはじめとする基幹業務部門では、なかなか生成AIの活用が進まないという話も聞きます。
櫻田氏:先程ちょっとコメントしたとおり、DXやシステム化、効率化が進まないという状況とまったく同じといえます。ITの進化に対する抵抗感だったり、「失われた30年」の影響で取り組む余裕なんかないという声だったり、それでもやり始めなければいけないということは、すでに皆さん分かっているのではないでしょうか。
そうはいってもAIの処理が入った数字はまだ信用できない、検証はできるのかと思われている方も多くいると思います。技術進歩や生成AIに対する企業の受け止め方を踏まえると、人間による最終チェックは必要ですが、取引先マスタの支払条件、各種コードの整備や標準化を前提としてAI機能を組み込んだ業務プロセスで出力されてくる会計データは、「成立するかどうか」というより、「それを当然に利用する」レベルになっていると言えます。会計の本質は、ビジネス取引をルールベースで貸借のデータに変換して記録するということに他なりません。一例にすぎませんが人間が「あの科目なんだっけ?」と考えて調べる間もなく、生成AIが即座に科目も取引先コ-ドも提案してくれるので、そこからボタンを押していけば会計データが成立するようになる。さらに、AIは様々な情報やパターンを踏まえることから、ガチガチのルールベースになり過ぎることなく、経理財務担当者に提案をくれて、サポートしてくれる。そういう方向性の存在になっていると思います。
経理業務において生成AIを活用する上で、どのようなアプローチが有効でしょうか?
WAP 山本:次のようなアプローチが有効と考えます。
個人の業務レベルでCopilotやChatGPTを使い始めてみるというのがまず一つです。
二つ目に、経理で日常使用している業務システムに搭載されたAI活用の機能を使うことです。
三つ目は独自に自社開発をすることです。
これは開発に従事できる人がいて、さらに十分な予算を確保できることの2つの条件が揃った体力のある企業でないと現実的には難しいといえます。一つの機能を完成させるまでに、業務を深く理解した担当者が業務内容やプロセスを整理するところから始めます。機能化ができた後も精度を上げていくために何度も試行錯誤を重ねる必要があります。

当社のようなベンダーはそういった試行錯誤を重ねた上で機能搭載に至るので、二つ目の業務システムに実装された機能を利用していただく方が当然始めやすいと言えます。
私が開発を担当した機能もその一例です。資産管理モジュール「HUE Asset」で、固定資産登録の入力値に従って、次に入力すべき値や変更すべき値をAIが提案する機能を新たに開発しました。システムの中にAIを組み込むことで登録された情報を元にAIが提案をしてくれるため、固定資産登録を使うすべてのユーザーが各社の利用状況に合わせて利用をすることができます。
櫻田様:いわゆるエージェント型AIですね。すべて人間が画面に向かって細かに入力をしなくても、AIに情報を与えて「こういう風にやっておいて」とお願いしたらやってくれるという。他にもそういった事例やこの先の展望はありますか?
WAP山本:今後の見込みの話ですが、エージェント型AIにも対応していくという動きはあります。現状の「HUE AC」でできている部分についてお話しすると、分析AIを活用した多次元残高照会では、自然言語で指示を出すだけで残高の情報を分析した会計データを可視化することができます。他に、意思決定AIを活用した入金消込の機能では、予め微妙な金額の揺れは許容するというような人の「判断」に近い情報をAIに与えておくことで精度の高い消込を実現できるようにしています。提案AIを活用したHUEとCopilot for Microsoft 365とプラグイン連携させた機能では、ExcelやOutlook等のMicrosoft 365製品とHUE内の情報を組み合わせ、リアルタイムで幅広い業務の処理を提案及び検証できるようになります。例えば、Teams上でCopilotに「今月の支払い情報を表示して」と伝えるだけで、HUEの会計データから出してくれるようになります。
櫻田氏:多くの企業が、制度会計の会計帳簿をベンダーさんの提供するアプリケーションを介して作成するのですが、SaaS型であれば裏側でバージョンアップをして進化を続けるので、組み込まれたAIをシステムを介すだけで活用できるようになりますね。個別機能のアプリケーション、例えばAI-OCRや請求書電子化ツール、立替経費機能等を既存の会計システムに接続して活用する場合、ファイル連携やAPI連携など色々な方式がありますが、従来からあるアプリケーション間の接続の問題は少なからず出てくる可能性があるということは踏まえておくとよいでしょう。
経理業務AI活用の向き不向き
経理財務部門の業務で、AI活用の向き・不向きについてはいかがでしょう?
櫻田氏:新しい会計基準の導入時のギャップ分析やポジションペーパー作成におけるAI活用もいい例と考えています。弊社が導入済みのCopilotのAIエージェントで試してみたのですが、本当に早くて的確でした。さらに良い所は情報のソースを添えてくれるところです。少なくとも叩きとしては十分なレベルです。ワークスアプリケーションズさんの経理部ではポジションペーパー作成の実務に既に生成AIを使用していると聞きました。
WAP山本:AIは100%の精度を求められるような業務には向いていないです。例えば、予算超過や仕訳の整合性をチェックするような部分は100%の精度を出せるシステムに委ねた方が有効です。
提案や分析等、人間の判断が入る業務についてはAIに向いていると言えます。最終判断は人間がする前提で、その前段階の業務であればAIが向いている業務も多いのではないでしょうか。
経理財務部門のAI活用第一歩は「接点を持つこと」
経営者と経理財務部にとって現実的な第一歩はなんだと思いますか?
櫻田氏:やはり個人レベルの業務に使い始めることが現実的な第一歩と言えます。経理の一部の業務だけでもいいですし、まずは時間をかけてでも使うことです。やる必要がないと思われる方もいるかもしれませんが、そこはやはり、意識を変えていかなくてはいけないと思います。
個人レベルで使うと言っても、そこは会社なのでセキュリティ担保のため、情報システム部門も関与の上、有償版(エンタープライズ版)の生成AIの導入が必須でしょう。
WAP山本:個人レベルでできる範囲でいうと、例えば納品書の内容をもとに申請書を作成するという業務で利用することが考えられます。システムに取り込む方法として「ファイルアップロードする」仕組みを使うのであれば、ChatGPTを少しカスタムして「PDF形式の納品書をCSV形式(表計算ソフトで扱える形式)に変換する」という作業を自動で行わせることができます。
櫻田氏:カスタム活用とまではいきませんが、初心者の私も講演コンテンツの検討や検証、英文契約書の翻訳、各種文章の校正、前まではスタッフの方にお願いしていた簡単なExcel管理資料の作成といったところで使い始めています。生成AIに慣れ親しむという意味でも、そのようなところから、第一歩としてとにかく接点を持つことが大事なのではないでしょうか。経理財務業務でいうと、Excelにダウンロードした会計データを、生成AIを使って簡単に帳票を作りたいというようなニーズはあると思うんです。でもそのためには何を勉強すればいいのか分からないという方も多いようです。
WAP山本:Copilot for Microsoft 365のExcelを活用すると良いかもしれません。すでにExcelにCopilotが組み込まれていて、ちゃんと学習もしてくれます。
時間を使わない限り、生成AIは使いこなせない
櫻田氏:
実際のところ、私の世代ではExcelで関数を組んだり、マクロ組んだりは、ちょっとハードルが高い方が多い。Copilotにステップバイステップで指示をするとちゃんと作ってくれる、ということを知っているだけではなくて、まずは自分自身でやってみて「出来る」ということを体験する必要があると思います。Excelが得意な方に「こんな感じで作って欲しい」と頼んだ方が当然楽ですが、それでも時間を使って生成AIに慣れていった方がいいのではないでしょうか。将来のことも踏まえ、生成AIを使えるようになるためにはあえて今時間を使うしかないのではないでしょうか。
WAP山本:開発現場で利用する場合も同じです。ChatGPTを使う上で、やはりどうやったら精度が高くなるのか、事前にある程度勉強をしないと使いこなすことは難しいです。
櫻田氏:まずは個人が使ってみて、どのように使っているのか、の体験を周囲の皆で共有していくことが大切だと思います。時間を使わない限り、AIを仕事のパートナーとするという次のステップへは進めないのではないでしょうか。
特にExcel作業については、私は生成AIを入社してまもない社員だと思って、指示を出すようにしています。やって欲しいことを論理的に説明しなければ理解してもらえないので。それでも今までと違うのは、プログラム言語を知らなくても、Copilotは人間が自然言語で論理的に説明するだけで作業をしてくれるというところです。「そういうことだからいい感じにやっておいてね」と言ってもCopilotは困ってしまいます。残念ながら今はまだ映画に出てくるような飛び抜けて優れた、魔法の道具のようなAIエージェントは実在しません。
WAP山本:人と違って生成AIは文章の裏側の意図を汲み取ることはできないですからね。そういった指示(プロンプト)で生成AIからよりよい答えや成果物を得るための手法を、プロンプトエンジニアリングと呼ばれます。精度を上げるためには自分自身の思考を整理した上で様々な手法を試して精度を上げることを意識しています。
精度の面でいいますと、100%とはまだ言い切れない部分が多いので、考え方としては、先程櫻田さんがおっしゃった「AIを入社したばかりの社員の一人」と捉えるとちょうどよいかもしれません。AIに仕事を任せるというよりも、AIの仕事は人間がフォローするスタンスです。読み込ませるデータ量は多すぎると、AIがどれを使えばよいのか分からなくなることがあります。AIエージェント化の考え方として、タスク毎に区切って指示を出す方が、一つひとつの精度が高くなります。
櫻田氏:そうやってタスク一連の作業が一度プロンプトとして固まれば、次からはもう指示が楽になりますし、自分用の処理エージェントを作る感覚で面白いですよね。
AI活用が経理財務の未来へと繋がる
AIを取り入れるために求められる企業の文化や人材についてはいかがでしょう?
櫻田氏:ここまで何度も話してきていますが、AI活用において重要となるポイントは、まず使うことです。DXよりずっと入り口のハードルが低く簡単だと感じています。プログラミングと異なり、文系の方でも気軽に使うことができるからです。職場にそういう空気感がないのであれば、情報システム部門やマネジメント層に相談をしてみるのも一手です。こんなことができた、あんなことができたという体験を共有し合いながら積み重ねていくことが重要となるので、まずは部門として同じ方向を見据えることが有益と考えます。
若い世代、α世代と呼ぶのでしょうか、もう小学生くらいから生成AIを使い始めていますし、これから就職をする大学生も生成AIを使い慣れているのは当然、ということになるでしょう。転職をされる方にも同じことが言えます。活用できている企業であるかどうかも転職先に求める条件にもなってくるかもしれません。
最後に、櫻田様からコラムの締めくくりとして一言、お願いいたします。
櫻田氏:5回にわたって異なるテーマでお話してきましたが、やはり根本の部分は様々な変化をどのようにして自分達のものにしていくか、ということではないでしょうか。企業の文化や慣習を変えることは簡単ではありませんが、守るべきものと守らなくていいもの、どんどん変えていくべきものを、ミドルマネジメント以上の方々は意識しないといけないと思います。逆に言えば企業として本当に守らなければいけないものは何なのか、ということです。それ以外は変えてしまってもいいのではないでしょうか。
経理財務でいうと、会計帳簿を正しくきちんと記帳できて、会計基準や税法に従った処理ができていれば、人がやろうとAIがやろうとそのプロセスは問わないわけです。会計基準や各種法規も社会や経済環境に応じて変わっていきます。世の中の常識が変わりつつある中で、企業そしてそこで働く人は思考や意識を変え、チャレンジをしていかないと生き残れない、そんな時代に直面しているという実感があります。
今、積極的にAIを活用することは、経理財務の皆さんの未来へと繋がっていくはずです。
※本記事は2025年11月9日時点の内容です。