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2025/08/01

大手企業向けERP 「HUE」への生成AI機能搭載の舞台裏

2025年7月、大手企業向けERP「HUE」の業務機能に、生成AIを活用した新機能を正式にリリースしました。本記事では、生成AI機能を開発したエンジニア自身が、構想から実装までの道のりとその裏側についてご紹介します。

目次

    生成AI機能開発を考え始めたきっかけ

    このたび、HUEの資産管理モジュールであるHUE Assetにて生成AI機能開発を行った経緯を書かせていただきます。開発を担当いたしました山本です。

    私はHUE Assetの「固定資産管理」機能の開発・保守を担当しております。

    普段は追加機能の開発や不具合修正、お客様の問合せ調査等、固定資産管理の機能担当者として日々開発業務を行っています。

    私が生成AI機能の製品搭載を考えたきっかけは、2023年末のOpenAI社によるGPTsの公開でした。

    GPTsはChatGPTにナレッジとしてファイルを読み込ませたり、答え方を事前に設定できる等、ChatGPTを自分好みにカスタマイズできる機能です。
    「これをうまくHUE Asset用に使えないか?」と考え始めたことが、生成AI機能開発のきっかけになりました。

    最初のアイディア「Asset Validator」

    生成AIを使った機能で最初に思いついたのが、GPTsを活用した「Asset Validator」という機能でした。

    HUE Assetでは、固定資産の情報を登録する際に、入力内容が正しいかチェックする機能を実装しています。

    そこで、「固定資産登録」の入力チェックルールを、あらかじめGPTsのナレッジとして読み込ませておく仕組みを構想しました。登録する資産情報と、ナレッジのルールを使って手軽にカスタムチェックを作れると考えたのです。

    実現できれば個別にロジックを開発するコストがほぼ0で様々なチェックを追加できるため、当初は画期的な機能だと考えていました。しかし、GPTsを使った検証を進める中で、生成AIを用いて実現するにはかなりハードルが高いことがわかってきました。

    実際、社内でも「チェック機能は精度が100%じゃないと使えない」「普通にロジックで機能強化した方がユーザーは嬉しいのでは?」といった意見があり、実運用に耐え得る機能は作れないと判断し「Asset Validator」の開発は断念しました。

    生成AIが得意なこととは?

    一度は断念したものの、生成AIでできることはまだまだあるはずと考え続けていました。
    そこで、「生成AIの得意なこととは何か?」を改めて考え直したときにたどり着いたのが「提案型」のアプローチです。

    「固定資産登録の入力値に従って、次に入力すべき値や変更すべき値をAIが提案する」という仕組みであれば、常に100%の精度が求められるものではありません。入力に迷う場面でAIがヒントを提示するだけでも、ユーザーにとって十分に価値があります。

    この提案型アプローチでまとめた案は社内でも高く評価され、実用性と導入の容易さが認められたことから、実際に開発へ踏み出すことになりました。

    生成AI機能開発スタート!

    開発に着手する前に、まずAI に何を提案させるかを考えました。

    固定資産登録の機能は、償却費計算・仕訳作成・税務申告など会計処理の前提となるため、入力項目が非常に多岐にわたります。そのすべてを一度に扱うのは現実的ではないため、まずは効果が大きい主要項目に絞って提案させる方針を採りました。

    最初のターゲットとして選んだのが固定資産分類マスタです。このマスタは会計・税務情報を補完する重要な入力項目で、コードを選ぶだけで入力に不慣れなユーザーでも必要情報を簡単に登録できるように設計されています。またすべてのユーザーが必ず使用するため、入力候補を提示できれば大きな利便性向上が見込めると考えました。

    こうした理由から、まずは 固定資産分類マスタの選択候補提示機能 に特化して開発を進めました。

    挫折からのブレイクスルー

    「何を提案するか」が決まったところで、つぎにどのように提案するか を検討しました。
    当初は、既存の資産情報を学習させ、その傾向から入力値を提案する方法を考えました。しかしWAPの生成AI機能実装に関する方針として、 Azure OpenAI Service側での事前学習はセキュリティの観点から採用していませんでした。そのため毎回プロンプトで資産情報を渡す案も検討しましたが、データ量が膨大になり実運用には向きませんでした。

    そこで発想を転換し、ユーザーが実際に入力するときの思考手順を整理しました。

    • 入力値がわからなければ、固定資産分類の名称から推測して選ぶ
    • 過去の資産を検索し、似た資産を参考にする

    この整理から得たヒントをもとに、次の二つを組み合わせる仕組みを考案しました。

    1. 資産名称と固定資産分類マスタの名称を比較し、意味の近い候補を提示する

    2. 判断の参考情報(類似資産など)を同時に表示する

    組み合わせて提案をすることで、ユーザーの入力時の思考に近い形で提案をすることが期待できます。さらに、生成AIから提案する値を複数件にすることによって、ユーザーの判断で選択の余地を残せるよう設計しました。

    それを実現した実際の画面が以下のものです。

    ユーザーが入力した資産情報にもとづき、生成AIが複数の分類候補を提示しています。画面の中で、それぞれの候補に対して根拠や類似資産の参考情報が表示されており、ユーザーは最も適切だと思うものを選択できます。

    実際の業務の流れを整理することで、単なる生成AI利用にとどまらず、実務に即した使いやすさを実現できました。

    おわりに:業務理解があってこそ、AIは活きる

    最後に、生成 AI の開発を通じて 技術が進化しても業務理解が伴わなければ実用的な機能は生まれない ことを改めて実感しました。

    今回、HUEに初めて生成 AIを組み込むにあたり、業務に即した実用性を最優先に開発を進めています。

    ユーザーの皆さまに実際にご利用いただく中で、さらに価値ある機能へと育てていければと思っています。ご意見・ご要望をお待ちしております。