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2026/02/24
【5分で解説】2026年施行の「取適法」|下請法から何が変わった?実務で押さえるポイント
2026年1月1日、下請法の改正により「中小受託取引適正化法(通称:取適法)」が施行されました。実務ルールはより広範かつ厳格なものへと変わっています。本記事では、多忙な担当者が最短で全体像を把握できるよう、主要な変更ポイントを絞って解説します。
目次
1.【全体像】下請法から「取適法」へ(背景と名称変更)
なぜ「取適法」になったのか?
昨今の原材料費・エネルギー価格の高騰に加え、人件費の上昇が企業の収益を圧迫しています。しかし、受注側(サプライヤー)が立場の弱さからコスト増を価格転嫁できなければ、賃上げや設備投資は停滞し、サプライチェーン全体が疲弊してしまいます。 2026年1月1日施行の改正により、こうした「一方的な価格決定」や「協議拒否」を防ぎ、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁が進むよう、取引の適正化と価格転嫁の促進を図ることを狙いとしています。
法律名・用語の変更
法の名称から「下請」という言葉が消え、「中小受託取引」等へ変更されました。また、実務で使われる用語も合わせて刷新されています。これは上下関係ではなく、共存共栄を目指す「対等なパートナー」としての取引関係を定義し直すものです。
| 改正【前】 |
改正【後】 |
| 下請代金支払遅延等防止法 | 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律 |
| 通称:下請法 | 通称:取適法 |
| 親事業者 | 委託事業者 |
| 下請事業者 | 中小受託事業者 |
| 下請代金 | 製造委託等代金 |
2.実務に直結する「3つの主要変更ポイント」
変更①:対象となる「取引」の種類拡大
取引の対象として、以下の2点が追加されました。
-
第5類型「特定運送委託」の追加
-
製造委託等の対象に「金型以外の型・治具等(木型・治具等)の製造委託」も追加
【これまでの規制対象(下請法)】
4類型:「製造」「修理」「情報成果物」「役務提供」
※物流分野では、運送会社間の委託(再委託を含む)が「役務提供委託」として扱われる場面が中心。
【これからの規制対象(取適法)】
5類型:「製造」「修理」「情報成果物」「役務提供」「特定運送委託」
※発荷主(メーカーや卸売業者等)が運送事業者に直接発注する取引も規制対象。
※製造委託等の対象として「金型以外の型・治具等(木型・治具等)の製造委託」も追加。
ポイント
- 物流分野では、新たに「荷主直発注」の領域が規制対象に加わります。これにより、物流現場で常態化していた「長時間の荷待ち」や「契約外の荷役作業(積み下ろし)」の強要といった、荷主優位の商慣習に直接メスが入ることになります。
- 製造分野においても、製品単価の交渉だけでなく、従来うやむやになりがちだった「治具や金型・木型」等の保管・維持費用についても、適正な対価の支払いが強く求められます。これらの要求を拒絶したり、一方的に費用負担を強いたりする行為は、内容次第で取適法の禁止事項に該当する恐れがあります。
変更②:対象となる「企業」の基準拡大
-
新たに「従業員基準」が導入
【これまでの対象基準(下請法)】
「資本金基準」のみで判定。
【これからの対象基準(取適法)】
原則は「資本金基準」で判定し、資本金基準が適用されない場合に「従業員基準」で判定。
※資本金が低くても、従業員数が一定数を超えれば規制の対象(委託事業者)となる。
「常時使用する従業員の数」とは?
「会社に継続的に雇用されており、賃金台帳に載っている人数(役員を除く、パート・アルバイト等を含む)」で判断します。グループ全体ではなく、「法人単位」でカウントします。
ポイント
- 実務担当者が特に注意すべきは、この「従業員数」の捉え方です。単なる正社員数ではなく、実態として継続雇用されている「賃金台帳」上の人数で算定します(パート・アルバイト等は含まれますが、派遣社員は派遣元が使用者となるため、派遣先の「常時使用する従業員数」には含まれません)。
- 例えば、持株会社制などで資本金を低く抑えていても、「常時使用する従業員数」が基準を超えれば委託事業者に該当し得ます。また、相手方の資本金が大きくても、従業員数が基準に当てはまれば、守られるべき「中小受託事業者」に該当します。資本金だけでなく、従業員数も含めて取引先情報を正しく管理・把握する必要があります。
「製造委託」「修理委託」「情報成果物作成委託(プログラム)」「役務提供委託(運送・倉庫保管・情報処理)」「特定運送委託」の場合

| 委託事業者 |
中小受託事業者 ※個人事業主を含む |
| 資本金3億円超 | 資本金3億円以下 |
| 資本金1千万円超3億円以下 | 資本金1千万円以下 |
| 常時使用する従業員300人超 | 常時使用する従業員300人以下 |
「情報成果物作成委託」「役務提供委託(運送・倉庫保管・情報処理除く)」の場合

| 委託事業者 |
中小受託事業者 ※個人事業主を含む |
| 資本金5千万円超 | 資本金5千万円以下 |
| 資本金1千万円超5千万円以下 | 資本金1千万円以下 |
| 常時使用する従業員100人超 | 常時使用する従業員100人以下 |
変更③:価格交渉・支払手段における禁止事項の追加
禁止行為として、以下の2点が追加されました。
- 協議に応じない一方的な代金決定(価格据え置き取引への対応)
-
手形払いの原則禁止(支払遅延に該当)
| 項目 | これまで(下請法) | これから(取適法) |
| 価格交渉 | 協議拒否そのものを直接禁止する明文規定はなく、従来は「買いたたき」等の枠組みで問題となり得た。 | 協議に応じない一方的な代金決定の禁止。協議の求めを無視、または説明・根拠を示さず据え置く行為も禁止。 |
| 支払手段 | 期日前に現金化が困難な手形等は問題となり得る。 | 手形払いは支払手段として禁止。電子記録債権・ファクタリング等でも、支払期日までに代金満額(手数料等を含む)を得ることが困難なものは支払手段として禁止。あわせて、振込手数料を中小受託事業者に負担させることも禁止。 |
ポイント
- サプライヤーから価格交渉の申し入れがあったにもかかわらず協議に応じず、委託側で一方的に代金を決定する行為は、規制の対象になります。
- 長期サイトの手形払いは、実務上「割引困難な手形等」として指導対象となり得るため、現金払い・電子記録債権等への移行と、支払サイトの適正化が強く求められます。
参考:公正取引委員会「改正ポイント説明会」資料
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/2025/251014_01.pdf
まとめ|実務の重要ポイント
今回の改正で、判定基準は「従業員数」という動的な情報へと広がり、対象となる取引類型・事業者要件が拡大し、従来より幅広い取引で適用可能性の検討が必要になりました。
また、価格交渉プロセスの記録や支払手段の適正化など、管理すべき項目は大きく増えています。これらを人手で完璧にチェックし続けるのは現実的ではありません。万が一違反した場合、公正取引委員会による勧告・公表の対象となり、社外からの信用や取引関係に影響が出る可能性があります。
このように、複雑化する規制への対応で重要となるのが、法令遵守を個人の努力に委ねるのではなく、企業の「仕組み」として定着させることです。具体的には、取引先情報の自動連携や支払サイトの自動検知、交渉経緯のデジタル記録といったテクノロジーを活用した「デジタルガバナンス」の構築が不可欠です。これこそが、不測のコンプライアンスリスクから組織を守るための、現代の重要なインフラとなります。