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管理会計の具体例―実践事例と分析手法4選

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管理会計の重要性が高まっています。ビジネス環境が急変する中で、買収・海外展開・新規事業立ち上げなど投資を判断する機会が以前より増え、管理会計のような経営戦略に役立つ情報を経営者がより強く求めるようになったためです。

しかし、その管理会計の活用をうまくできず、頭を悩ませている企業も多く見受けられます。例えば、

"指標の算出や帳票作成などに非常に手間がかかり、経営者への情報公開が遅れてしまう。"
"各現場に部署別の業績レポートを公開しているが、レポート送信の手間や現場からの明細に関する問い合わせ対応の負荷が大きい。"
"結局どの指標を用いて、どのように意思決定すれば良いのか分からない。"
"大きな手間と時間がかかった割にはあまり効果が出ないので、経営者や現場など各方面からの不満が募っている。"

といったお声をいただくことがあります。

これらの課題に適切に対処し、管理会計を十分に活用するためにはどうすればよいのでしょうか。このような問いに正解はないものの、他社の事例は自社の活用手法を考える上で大きなヒントになります。

そこで本記事では「業種業態」「企業の成長フェーズ」という二つの視点を切り口に、管理会計の活用事例をご紹介します。


業種業態にあった分析指標の見極め

まず一つ目のポイントが「業種業態にあった分析指標の見極め」です。管理会計には様々な手法が存在しますが、業種業態によって適切な分析軸や指標は大きく異なります。いくつか事例を見ていきましょう。

パターン① BtoBかBtoCか

例えば、セグメント別損益分析は一般的な管理会計の手法ですが、セグメントの種類は「顧客」「商品」「地域」「販路」などいろいろとあり、業種業態によって着目すべきセグメントも変わります。

簡単な例として、顧客セグメントを考えてみます。顧客別損益分析は、BtoCの企業ではあまり効果がありませんが、BtoBの場合は非常に重要になる場合があります。なぜなら、BtoCだと顧客数が非常に多いために、売上高を構成している顧客の割合を分析し顧客別に損益を算出してもさほど意味が無いのに対し、BtoBだと売上高の大部分が上位数社の顧客によって構成され、その上位数社の損益管理が企業の肝になるような場合があるからです。さらに、売上高の大きな顧客には接待交際費がかかったり、値上げやリベートなどの要求が多かったりするため、売上貢献はしているけれど、実は利益貢献はしてないという場合もあります。以上のような理由のために、BtoBであれば顧客別に販管費がどれほどかかっているか、値引き率はどれほどか、利益がどれほどかなどの損益管理が大事になるケースが多いのです。

ここでは顧客セグメントを例に、BtoBとBtoCでの着目すべき観点の違いをご紹介しましたが、その他にも管理会計ではBtoBとBtoCでは下の表のように分析手法が変わってきます。

パターン② 固定費型か変動費型か

また管理会計では、企業を業種業態に応じて「固定費型企業」「変動費型企業」と分類することがよくあります。なぜなら、「固定費型」か「変動費型」かによって管理会計の分析手法が異なることが多いからです。

まず、「固定費型企業」とはその名の通り「固定費支出が大きく、変動費支出が小さい企業」のことです。固定費は人件費や設備投資費など売上高に依存しない費用のことですが、「固定費型企業」とはそのような設備投資費額が大きい、電気やガス産業のような製造業、テーマパークやホテル事業のようなサービス業、小売業の中でも特に大型スーパーや家電量販店のような業態の企業があてはまります。そして、販管費などの売上高に依存する変動費支出が小さいことから、一般的には販売商品1個当たりの(限界)利益率が高いという特徴があります。

そしてこの「固定費型企業」では、「コスト削減」よりも「顧客数管理」の方がポイントになるケースが多く見られます。なぜなら、コスト削減をしづらい固定費支出が多い一方で、商品の利益率は高いために、顧客数の増加によって利益率向上を大きく見込めるからです。さらに、顧客数増加を期待して値引きを行うことも、元々の利益率が高いので有効になり得ます。

一方、「変動費型企業」は「固定費型企業」とは対照的な特徴を持っています。「変動費型企業」は「固定費支出が小さく、変動費支出が大きな企業」を指し、小売業や卸売業の企業が一般的にはあてはまります。そして変動費は固定費よりも節約しやすいので、変動費低減による「コスト削減」が大事になる一方で、変動費が大きいために商品の利益率が低く、安易な値引きは危険です。

以上のように、管理会計には様々な手法がありますが、業種業態によって適切な分析軸や指標、意思決定の仕方が異なります。そして、いかに自社の業種業態にあった管理会計の手法を見極めるかが重要になります。

なぜなら分析軸や指標を見誤ると、あまり効果のない分析軸や指標を集計するための手間や帳票作成の手間がかかるからです。余計な集計や帳票作成によって経理部門や経営企画部門に負荷がかかるのはもちろん、データ提供に協力する営業部門など、現場部門にも負担をかけかねません。さらに、帳票作成に時間がかかると、経営者への管理会計情報の報告が遅れ、経営者の意思決定も滞ります。手間がかかる割に効果が出ないので、各関係者からの不満が出たり管理会計の形骸化につながったりするのです。したがって、業種業態にあった管理会計の手法を見極めることは非常に重要になります。

成長フェーズにあった課題の特定

また企業の成長フェーズによって、取り組むべき管理会計の重点テーマが変わることも注意すべきポイントです。

上の図は、企業が管理会計を推進する際のステップ例です。管理会計を推進しようとする際は、闇雲に進めるのではなく、


①データを正確に早く集める仕組みを作る

商品や顧客ごとの正確な損益の把握・迅速な決算情報の開示・固変分解など

②人や組織を育てる
部門別予実管理・経営幹部の育成・業績評価体制の確立など

③管理会計を事業戦略に活かす
新市場参入の意思決定・新商品開発の意思決定・中長期利益計画の策定など


という3つの段階にそって順々に取り組むことが重要です。なぜこのステップが大事なのか、他社事例を参考に考えてみます。

事例① 従業員数800名 製造業 A社の場合

A社は複数の事業部を持つ企業です。A社では、各事業部ごとの売上目標は事業部長・経営企画部門・経営者によって策定されているものの、どの製品をどのような方針で販売していくかといった細かい販売計画は立てておらず、さらに旅費交通費や販管費などの費用の予算は、経理部門がいつも前期と同じ残高でざっくりと計上していました。

しかし、従業員数や事業規模の拡大、受注確度の精緻化、コスト削減を目的として、事業部別に細かく売上目標、利益目標、販売計画、変動費の予算を立てさせ、さらに、それまでさほど厳密に行っていなかった月別の予実分析も行うことにしました。

しかし実際に進めてみると、そもそも財務会計領域の月次決算情報が作成されるのが遅いので、管理会計の情報公開も遅くなり、結果的に効果的な予実分析が全くできないという問題が浮上しました。例えば4月の事業部別損益レポートが6月半ばになってようやく公開されるようなスケジュールだったため、たとえ課題を特定しても、既に市場などの状況が当時と変わっているために、効果的な施策を打てないという状態でした。しかも、今まで主に経理部門が作成していた費用の予算を各現場が作ることになったため、経理部門には新たに、予算記入シートを作成する手間、現場に配布する手間、進捗管理する手間、内容確認する手間など大きな負荷がかかってしまいました。

大きな負荷がかかる割には効果が出ないので、事業部別予実管理は形骸化し、各方面から強い不満が噴出しました。

この例のように、ステップ②の「部門別予実管理」を行う前には、ステップ①の「セグメントごとの正確な損益把握」や「迅速な決算情報の開示」などが重要になります。例えばシステムなどを効果的に活用し、データを正確に早く集める仕組みづくりが大事になるのです。

事例② 従業員数1000名 ITサービス業 B社の場合

B社は創業者が現社長の企業です。B社は創業者の強いリーダーシップにより急激に成長を遂げ、従業員数も右肩上がりで拡大してきました。そして、さらなる成長のために新サービスの企画や新市場参入も計画していました。

しかし、B社はここに来てはじめて、創業者一人では全てのサービスの損益や従業員の業績を管理しきれない規模にあると気づきました。それまでB社は、ステップ①にあたる「セグメントごとの正確な損益把握」や「迅速な決算情報の開示」は実現できていたものの、その管理は創業者がほぼ一人で行い、各商品の損益や各従業員の業績を細部に至るまで管理していました。その結果、B社が創業者一人では全てを管理しきれない規模まで成長したときに、経営を任せられる人材がいないという問題に直面してしまったのです。

この例ように、ステップ③の「新商品開発」や「新市場参入」の前に、まずステップ②の「人や組織を育てる」という課題に取り組まなければなりません。部門別予実管理を行い、その管理を任せられる経営幹部を育成し、さらに多くの従業員を効果的に動かすために、人事考課などと連動した業績評価のルール作りが重要になるのです。

ここまでご紹介したように、企業の成長フェーズに合わせ、3つのステップに沿って順々に管理会計を推進しなければ上記のような問題が起きることがあります。したがって、自社が現在どのフェーズにあり、どのような管理会計のテーマに取り組むべきかを見極めることは非常に重要になるのです。

以上、「業種業態」「企業の成長フェーズ」という2つの視点を切り口に、管理会計の活用事例をご紹介して参りました。管理会計の手法は様々存在し、企業によって千差万別ですが、自社の「業種業態」および「成長フェーズ」を正しく見極め、それらに合った手法を適用することが重要であるといえます。


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