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2026/01/21

経理・財務のための「令和8年度税制改正大綱」解説 〜実務目線で“何がどう変わる?”が分かる~

2025年12月、政府与党より「令和8年度税制改正大綱」が公表されました。今回の改正は、デフレからの完全脱却を目指した「賃上げ」と「国内投資」への強力な支援策が並ぶ一方、デジタル化・グローバル化に対応した「課税の公平性確保」が大きな柱となっています。
本記事では、膨大な大綱の中から、経理・財務部門の実務に直結する論点を厳選しました。「インボイス制度の経過措置見直し」や「グループ内取引の証憑保存の厳格化」など、システム設定や業務フローの見直しが不可欠な項目が含まれています。まずは自社に関連する改正項目を把握し、早期の対応策検討にお役立てください。

目次

    1.「3分」で把握:経理・財務向け「令和8年度税制改正大綱」の改正項目一覧

    まずは全体像を掴むため、経理・財務業務に影響しやすい改正点を一覧で整理しました。

    区分 改正項目 影響しやすい
    経理・財務業務
    影響(概要) 対象 実務影響※
    法人課税 大胆な設備投資の促進(戦略分野国内生産促進税制等) 固定資産管理、税務申告 高付加価値投資(GX・DX等)に対し、生産・販売量に応じた税額控除等を新設 製造業・特定事業者
    賃上げ促進税制の強化 給与計算、税務申告 赤字企業でもメリットを享受できる「繰越税額控除措置(5年間)」の創設 全企業
    グループ通算制度・グループ内取引の証憑保存 経理(支払)、文書管理 グループ内役務提供等の対価算定根拠となる証憑保存の義務化・明確化 グループ企業
    消費課税 インボイス制度経過措置の見直し 仕入・経費精算、税務申告 免税事業者からの仕入に係る仕入税額控除(経過措置)の控除率引下げ(80%→70%→50%→30%)と、免税事業者ごとの年間適用上限(10億円→1億円)の見直し 全企業
    プラットフォーム課税の導入 海外支払、消費税計算 国外事業者による国内向けの物品販売等(少額輸入貨物を含む)で、PF事業者に納税義務を転換する制度を整備 越境EC利用企業
    少額輸入貨物の免税見直し 輸入経理、原価計算 輸入時の少額免税(1万円以下)の適用除外範囲の拡大 輸入事業者  中
    所得課税 ストックオプション税制の拡充 給与計算、法定調書 スタートアップ等における権利行使時の利便性向上(保管委託要件の緩和等) 特定企業
    納税環境 更正の請求等の電子化 税務申告 e-Taxによる手続きの義務化範囲の拡大と利便性向上 大法人中心

    ※実務影響の目安
    大:システム改修や業務フローの大幅変更が必要
    中:設定変更や運用ルールの修正が必要
    小:確認作業や軽微な変更程度

    その他、押さえておきたい改正トピック

    上記の経理・財務直結項目のほか、「令和8年度改正」の全体像を把握する上で欠かせない主要論点も盛り込まれています。あわせて確認しておきましょう。

    【大綱の主要な柱(社会的影響の大きい論点)】

    • 個人所得基礎控除の物価連動、住宅ローン控除の省エネ厳格化、NISA拡充、富裕層課税など。

    • 資産・消費:自動車税制の抜本見直し(環境性能割廃止等)、出国税の引上げ検討。

    • 国際・防衛:グローバル・ミニマム課税の法制化、防衛増税(所得税付加税)の開始時期議論。

    • 納税環境:申告手続きのデジタル化、経済安保観点での関税改正。

    【個別の制度各論(実務やシステムに関係する論点)】 

    • 食事補助非課税限度額・要件の変更。給与システムの非課税枠設定に直結するため要確認。

    • 賃上げ税制:赤字でも使える「繰越控除」の新設。適用可否の判定フロー見直しが必要。

    • 交際費:接待飲食費の「1万円基準」の延長可否を確認。

    参考:財務省「令和8年度税制改正大綱の概要」
    https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2026/08taikou_gaiyou.pdf

    2.実務が変わる注目論点

    上記一覧の中でも、特に経理・財務部門の業務プロセスや基幹システム(ERP)の設定に大きな影響を与える4つの論点を深掘りします。

    2-1.【大型投資の税メリットが変わる】大胆な設備投資の促進(戦略分野国内生産促進税制等)

    国内回帰と産業競争力の強化を目的として、特定の戦略分野(半導体、蓄電池、グリーンスチール等)における投資減税が大幅に強化されます。

    影響しやすい経理・財務業務

    • 設備投資計画の策定と予実管理(キャッシュフロー計算)

    • 固定資産台帳への税務情報の登録(特別償却・税額控除の判定)

    • 法人税申告書の別表作成

    改正の要点 

    従来の一部業種限定措置とは異なり、生産量や販売量に比例して税額控除が受けられる「生産連動型」の支援措置が拡充されます。

    • 対象: 半導体、EV(電気自動車)、GX(グリーントランスフォーメーション)関連設備など。

    • メリット: 初期投資額に対する償却メリットだけでなく、長期にわたる生産活動に応じた税額控除が可能となり、投資回収期間の短縮が見込まれます。

    実務影響(業務フロー/システム) 

    経理部門は、投資計画段階から事業部と連携し、「税制適格要件を満たすか」のシミュレーションを行う重要性が増します。 システム面では、固定資産管理システムにおいて、本税制の適用対象資産とそれ以外の資産を明確に区分管理(セグメントやタグ付け)し、通常の償却計算とは異なる税額控除ロジックに対応できる設定が求められます。

    押さえるべきポイント 

    適用を受けるためには事前の計画認定が必要となるケースが多いため、着工・発注前のスケジュール管理がクリティカルになります。

    2-2.【仕入税額控除の計算が変わる】インボイス制度経過措置の見直し

    インボイス制度開始後の経過措置(免税事業者からの仕入に係る“みなし控除”)は、令和8年(2026年)9月末で「8割控除」の区切りを迎えます。令和8年10月以降は控除率が段階的に引き下がるため、取引実態の棚卸しとシステム・運用の両面で準備が必要です。

    影響しやすい経理・財務業務

    • 仕入先(ベンダー)マスタの管理・メンテナンス

    • 請求書受領時の事業者登録番号確認と税区分入力

    • 消費税の仕入税額控除計算・申告

    改正の要点

    • 控除率の変更:免税事業者からの課税仕入れに係る控除率は、令和8年10月1日以降は7割、令和10年10月1日以降は5割、令和12年10月1日から令和13年9月末までは3割へ、段階的に引き下げられます。
     適用期間

     控除割合

    (仕入税額控除)

     備考
     令和5年10月1日〜令和8年9月30日  80%  制度開始当初の経過措置(現行)
     令和8年10月1日〜令和10年9月30日  70%  令和8年度税制改正大綱に基づく変更点(7割控除への引下げ)
     令和10年10月1日〜令和12年9月30日  50%  令和8年度税制改正大綱に基づく変更点(5割控除への引下げ)
     令和12年10月1日〜令和13年9月30日  30%  令和8年度税制改正大綱に基づく変更点(3割控除へ最終延長)
     令和13年10月1日以降  0%  経過措置の終了(全額控除対象外)
    • 年間適用上限の見直し:免税事業者ごとの年間適用上限仕入額は、10億円から1億円へ引き下げられます。

    実務影響(業務フロー/システム) 

    会計システムや経費精算システムでは、取引日(課税仕入れの時期)に応じて、免税事業者仕入れの控除率を8割→7割(令和8年10月〜)→5割(令和10年10月〜)→3割(令和12年10月〜令和13年9月末)へ段階的に切り替える必要があります。特に、月をまたぐ役務提供・検収日が遅れる取引・締め日ズレがある請求は、どの段階の控除率に該当するかを誤りやすいため、判定基準日(計上日/検収日/役務提供完了日など)を社内ルールとして統一し、税区分の自動判定ロジック(または入力ガイド)を整備することが重要です。
    併せて、免税事業者ごとの年間上限1億円の判定が必要になるため、仕入先マスタと取引集計の紐付け(同一事業者名寄せ、取引先コード統一)も早めに点検しましょう。

    押さえるべきポイント 

    システムの改修だけでなく、免税事業者との取引価格の見直し(消費税相当分の値引き交渉等)が再燃する可能性があります。法務・購買部門と連携し、契約更新のタイミング(9月末まで)を見計らって交渉方針を固める必要があります。

    2-3.【グループ内取引の証憑保存が変わる】グループ通算制度・グループ内取引の証憑保存

    グループ通算制度を採用している企業や、グローバル展開する企業グループにおいて、グループ内取引(役務提供や資金貸借)の税務ガバナンス強化が求められます。

    影響しやすい経理・財務業務

    • グループ会社間の請求・支払業務(経営指導料、ロイヤリティ等)

    • 移転価格文書(ローカルファイル等)の作成支援

    • 電子帳簿保存法対応(証憑の紐付け)

    改正の要点 

    グループ企業間で行われる「役務提供(経営指導、シェアードサービス等)」や「資金貸借」について、対価の額(手数料や金利)の算定根拠を明らかにする書類の保存義務が明確化・厳格化されます。

    • 保存すべき事項役務提供の内容詳細、所要時間(タイムシート)、コスト配賦基準、マークアップ率(利益率)の決定根拠など。

    • リスク適切な保存がない場合、寄付金認定による損金不算入のリスクが高まります。

    実務影響(業務フロー/システム) 

    従来、グループ内取引では「親子間だから」と請求書や明細が簡易的なもので済まされていたケースがありますが、今後は外部取引と同等以上の明細(エビデンス)が必要になります。会計システム上で、グループ間取引の仕訳に対し、計算根拠となるExcelや契約書PDFを確実に添付・保存するワークフローの徹底が必要です。

    押さえるべきポイント 

    特に「本社費の配賦(マネジメントフィー)」は税務調査で指摘されやすいポイントです。「なぜその金額なのか」を第三者に説明できるよう、システム上の配賦ロジック自体を文書化しておくことが推奨されます。

    2-4.【少額輸入の消費税計算・申告が変わる】プラットフォーム課税の導入と少額輸入免税の見直し

    越境EC(海外プラットフォーム等を通じた物品購入)の拡大に伴い、課税の公平性を保つための「プラットフォーム課税」等の導入が進みます。

    影響しやすい経理・財務業務

    • 海外経費の精算確認(クラウドサービス、備品購入等)

    • 輸入消費税の処理

    • リバースチャージ方式の適用判定

    改正の要点

    • プラットフォーム課税の対象拡大: 国外事業者がデジタルプラットフォーム(PF)を介してデジタルサービスや物品を販売する場合、PF事業者が国外事業者に代わって消費税の納税義務を負う制度が整備されます。

    • 輸入免税の見直し: 個人輸入等で利用される「少額輸入貨物(1万円以下)の免税」について、適用除外となる範囲の見直し等が行われます。

    実務影響(業務フロー/システム) 

    社員が海外サイト(Amazon.com等の海外版やAliExpress等)で備品を購入した場合、請求書の発行元が「海外の販売者」ではなく「プラットフォーム事業者」に変更されるケースが増えます。経費精算システムにおいて、受領したインボイス(適格請求書)の発行事業者が誰になっているかを確認し、適切な税区分(課税/不課税/リバースチャージ)を選択する難易度が上がります。

    押さえるべきポイント 

    「誰が納税義務者か(誰からインボイスをもらうべきか)」が複雑化します。海外PF利用時の経理処理ルールをマニュアル化し、従業員へ周知する必要があります。

    3.対応の抜け漏れを防ぐ:初動3ステップ

    令和8年度改正は、システム改修やデータ整備を伴う項目が多く含まれます。以下の3ステップで早期に着手しましょう。

    該当項目の棚卸し(影響額の試算) 

    まずは前述の表から自社に関連する項目をピックアップし、具体的な「金額的インパクト」を試算します。 例えば、インボイスなら「免税事業者への年間支払額」を集計し、まずは直近の変更である控除率ダウン(80%→70%)によるコスト負担増がいくらになるかを算出します。ただの「制度確認」で終わらせず、経営層や他部署へ予算確保・対応依頼を行うための「数値的根拠」を固めることが目的です。

    システム影響点の確認(ERP・税区分・計算ロジック)

    消費税における「経過措置(7割/5割/3割)」用税区分の追加や「仕入1億円上限」の判定ロジック、固定資産税制の新区分に対応したマスタ整備や特殊計算への対応、さらにはグループ間取引の仕訳に算定根拠を確実に紐付ける証憑管理機能の構築など、税目や業務を横断したシステムへの反映が必要になります。自社の利用システムでこれらが対応可能か確認しましょう。

    関係部門ですり合わせ(役割分担とスケジュールの決定)

    改正対応は経理部門だけでは完結しません。投資計画なら「経営企画室」、インボイスなら「購買部門」といった社内連携に加え、新設税制の適用要件や証憑の妥当性判断については、顧問税理士や監査法人といった外部専門家との協議が不可欠です。 「法解釈は専門家、業務実装は現場」と役割を明確にし、社内外を巻き込んで施行日から逆算したスケジュールを策定しましょう。

    井上 雅彦 氏

    監修:井上 雅彦 氏(公認会計士)
    監査法人のパートナーとして、リースに関わる監査、アドバイザリー業務に長年携わる。監査法人トーマツリースクレジットインダストリーリースリーダー(元)、現在は、日本公認会計士協会と連携した一般財団法人会計教育研修機構でリース担当シニアフェローを務める。 リース会計税務に関する書籍を主著で計8冊出版(直近では「新リース会計の実務対応と勘所」を2025年2月末出版)。リース事業協会研修講師を長年務めた他、リース研修講師30件超経験。


    本改正への対応は、単なる法令遵守にとどまらず、業務プロセスのデジタル化・標準化を推進する好機でもあります。 大手企業向け統合基幹業務システム(ERP)である「HUE」および「HUE Classic AC」シリーズでは、令和8年度税制改正で求められるインボイス経過措置の率変更や、電子帳簿保存法の要件に対応した機能を順次提供予定です。法令変更に追随する強固なシステム基盤を持つことで、経理部門は付加価値の高い業務に集中することが可能になります。