Web記事AI活用, 業務効率化
2026/06/12
なぜ社内のAI活用は広がらない?WAP経理部門の事例からみるAI活用定着の方法
生成AIを全社に導入したものの、思ったほど現場での利用が進まないというお悩みは多くの企業で聞かれます。AI活用による業務効率化を求める企業にとって本当に難しいのは、ツールを導入することそのものではなく、それを現場に「定着」させることです。AIをただ現場に「配っただけ」で終わらせず、社員が日常的にAIを活用する状態に進めるための方法を、弊社経理部門における実例を交えて解説します。
目次
1. 社内AI活用が「導入」で止まってしまう理由
ChatGPTやCopilotといったAIの利用環境を整え、ライセンスを付与したとしても現場での活用が想定通りに進まないケースは少なくありません。社内でのAI活用が「導入」の段階で止まってしまう理由には、主に以下の2点が挙げられます。
- 何に使えばいいか分からない戸惑い:AIのライセンスを付与されただけでは、「日々の業務のどこで使えばよいのか」が見えず、最初の一歩を踏み出せないケースが多くあります。
- 正確性への不信感:100%の正確性が求められる業務であるほど、ハルシネーションへの懸念が活用を阻む心理的障壁になり得ます。
実際に弊社の経理部門でも、環境は整っていたものの実務への落とし込み方が分からず、活用が広がりにくい時期がありました。また、「AIは嘘をつくから信用できない」と、当初は全くAIに触ろうとしないメンバーも存在しました。AIがこちらの機嫌を取るように不正確な情報で出力してくる傾向もあるため、正確性が絶対視される部署ほど、この性質に対する不信感が定着の大きな壁となります。
2. WAP経理部門がAI活用を定着させた方法
前章で挙げたような「活用イメージの欠如」や「精度への不信感」に対して、弊社経理部門では以下のようなアプローチを行いました。
2-1. マネージャーが率先して使い、成功例を共有
前述のとおり、もともと経理部門では、「AIは正確性に欠ける」と疑念を持ち、全くAIに触れようとしないメンバーも存在していました。
当時、部門内では毎月約100件の見積書や作業時間報告書を、PDFから手作業でExcelに転記する定例業務が発生していました。そこで、経理部長自らが工夫してGem(カスタマイズしたプロンプトを常に適用して回答を生成できるGeminiの機能。ChatGPT等でも同様の機能あり)を作成し、PDFの内容を自動で読み取れるようにしました。
▼【PDFの読み取りGem】
※PDFの「作業報告書」をアップロードすると自動で読み取り、指定の形式にデータ化してくれる。

そして、完成したツールを部下へ「この業務で実際に使ってみて」と具体的な"業務指示”として渡したところ、ほぼ100%の精度で間違いなく処理できることを実感してもらえました。
このように、まずはマネージャーが率先して結果が分かりやすい定例業務からAIを導入することで、不信感を持っていた社員も実務での有用性を理解し、自然と活用への第一歩を踏み出すことができました。
2-2. 定例業務以外は、60点〜80点のアウトプットから改善していく
一方で、正解がない非定例業務に対しては、最初から完璧なものを出そうとして、結果的にうまく使えずに手が止まってしまう状況も散見されました。そこで、「AIに最初から100%を求めず、まずは60点〜80点のたたき台を作らせる」という共通認識を持たせることにしました。
例えば、監査法人から求められる「ポジションペーパー(会計処理方針書)」の作成は、通常なら白紙から構成を考えて作成するまでに丸4日ほどかかる重い業務です。定例業務ではないため、当然AIが一発で完璧な正解を出すことはできません。しかし、関連する会計基準や自社の契約書をAIに読み込ませることで、一瞬で60点〜80点レベルのたたき台が出力されます。それを人間が確認・修正していくことで、結果として約3日分もの業務時間を短縮することに成功しました。

このように、AIに最初から100%の完成品を求めず、「非定例業務はまず60点〜80点の下書きを作らせて効率化する」という共通認識を持つことで、複雑な業務でも一気に使い始めやすくなります。
2-3. プロンプトは、誰でも再現できる形で共有
また、AIの活用を現場に定着させるうえで、「人によって出力結果がばらつく」という壁もありました。プロンプトの書き方によってはエラーが出たり出力精度が落ちたりするため、思い通りの結果が得られなかったメンバーは利用をやめてしまうこともありました。
例えば、先述のAIを用いたPDF読み取りGemにおいて、当初は「複数のPDFを一度に入れると最初の1枚しか読み取れないことがある」といった事象が起きていました。そこで、「1枚ずつPDFを処理して、処理が終わったら次に行く」という条件をあらかじめプロンプトに組み込み、誰がやってもエラーが起きにくい構造へと改良しました。
このように、「誰が使っても同じ手順で、安定して精度の高い結果が出せる」ようプロンプトを磨き上げ、Gem等の定型化したツールとして現場に共有することで、エラーによる現場の不便さを防ぐことができ、結果として部内全体でのAI活用の定着を大きく進めることができます。
2-4. 研修をきっかけに、社員自らAIを積極的に活用するよう促す
現場ではもともと、ChatGPTやGeminiを使い、簡単な調べものや文章作成といったチャット形式の基本利用はできるようになっていました。一方で、搭載されている高度な機能をすべて使いこなせているとは言えない状況でした。例えば、有効活用できていなかったのが「Canvas機能」です。これはAIと一緒に一つの画面で文章や成果物を共同編集できる便利な作業スペース機能であり、プログラミング知識がない人でも「どんな機能を作ってほしいか」を日本語で指示するだけでアプリを作成することができます。
そこで、体系的にツールの活用法を学ぶ場としてAI研修を受講してもらいました。普段の業務のなかで、こうした新しい機能を自力でキャッチアップする機会はなかなかありませんでしたが、この研修をきっかけに、メンバーはCanvas機能をはじめとする様々な高度な活用法を習得しました。例えば、これまで手作業で苦労していた「管理会計上の人員数の突合業務」を自動化するアプリを、プログラミング知識のないメンバーが自らAIに指示を出して構築できるまでに成長しました。
▼【管理会計上の人員数突合の自動化アプリ】
※「見込」と「実績」の部門別人員数が記載された2つのExcelデータを読み込ませるだけで、両者を比較して数値を最新(実績)に更新したExcelファイルを自動出力してくれる。

研修をきっかけに高度な活用法を習得したことで、社員自ら積極的に業務をアプリ化・効率化していく状態を作り出すことができています。
3. まとめ
AI活用を社内に定着させるには、現場が「自分の業務でどう使えるか」を具体的にイメージでき、安心して試せる環境を整えることが重要です。
そのためには、現場の部門長やリーダーを最初に巻き込み、身近な定例業務での「小さな成功事例」を作って業務指示として下ろしていくアプローチが有効です。現場にただツールを渡すのではなく、具体的な活用イメージとセットで展開していくことが、AI活用を一過性の取り組みで終わらせず、組織全体の生産性向上につなげる鍵となります。
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