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知の探索が日本を変える ー「イノベーションを生めない日本企業」から脱するためにー

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知の探索が日本を変える
「イノベーションを生めない日本企業」から脱するために

2017年11月22日(水)に開催した「COMPANY Forum 2017」での早稲田大学ビジネススクール 早稲田大学 大学院経営管理研究科 准教授 入山章栄氏の講演内容をダイジェストでお届けします。

イノベーションを起こす“知の探索”と“知の深化”とは―世界の経営学の研究結果と日本企業の現状を照らし合わせ、入山氏は日本企業が“知の深化”に傾いており、新たなイノベーションのためにはさらなる“知の探索”が必要であると指摘する。 さらに“知の探索”を行うための、あるべき企業文化・組織・経営ビジョンについて語る。

イノベーションを起こすことができる企業とは

早稲田大学ビジネススクール 早稲田大学大学院 経営管理研究科 准教授 入山章栄氏
早稲田大学ビジネススクール 早稲田大学大学院 経営管理研究科 准教授 入山章栄氏

「イノベーションを起こすための第一歩とは?」入山氏は問いかける。世界の多くの企業が、変化と競争が激しい時代に危機感を抱きながらも、新規事業や新規プロジェクトが道半ばで途絶えてしまう現状に思い悩んでいる。「イノベーションの大小問わず、前進するには“新しい知”が必要。“新しい知”は、まだ繋がっていない既存の知の組み合わせによって生まれる」と断言する。これは、長年に渡って世界の経営学者が研究を重ねるイノベーション理論の根本にある考え方だという。

例えばメーカーであれば、製品化に至らなかった素材と別製品を組み合わせることで、全く新しいものが生まれる可能性がある。しかし、実際にはそう容易にイノベーションは生まれない。入山氏 は、イノベーションのきっかけとなる既知の組み合わせを阻害する要因として、人間の脳の限界を指摘する。「認知科学で、人は認知できる“目の前のモノ”しか組み合わせられないと立証されている」挙句に、日本企業は新卒一括採用から始まり終身雇用、転職しても同業界と、同じタイプの人材が同じコミュニティに何十年と滞留し続ける。「もはや、同じ知しかない環境からはイノベーションは生まれない。目の前の知の組み合わせは、すべてやり尽くしてしまった」と苦言を呈する。

スケジュールの管理、掲示板(連絡事項)、ファイル管理、といったグループウェアの機能は日常的に利用しています。他にも売上げや予算対比を見たり、会議室予約を行ったりします。ポータルとして最も頻繁に利用していますが、Arielにログオンして、そこから業務データや業務システムに飛ぶという使い方をしています。出社後、PCを起動したらまずArielを使ってくださいとアナウンスをしていますが、従業員食堂の本日の定食メニューなどの、重要ではなくても閲覧率を上げるための情報をAriel上で表示するようにしています。先日、経費精算の申請方法を変更したのですが、その運用変更のお知らせもArielの掲示板に載せて周知を行い、説明会も実施しました。説明会にはあまり人がこないと思っていたのですが、意外と皆さん説明会にきたので、Arielの閲覧率が高いということがわかりました。

「イノベーションを起こすための第一歩とは?」入山氏は問いかける。世界の多くの企業が、変化と競争が激しい時代に危機感を抱きながらも、新規事業や新規プロジェクトが道半ばで途絶えてしまう現状に思い悩んでいる。「イノベーションの大小問わず、前進するには“新しい知”が必要。“新しい知”は、まだ繋がっていない既存の知の組み合わせによって生まれる」と断言する。これは、長年に渡って世界の経営学者が研究を重ねるイノベーション理論の根本にある考え方だという。

例えばメーカーであれば、製品化に至らなかった素材と別製品を組み合わせることで、全く新しいものが生まれる可能性がある。しかし、実際にはそう容易にイノベーションは生まれない。入山氏 は、イノベーションのきっかけとなる既知の組み合わせを阻害する要因として、人間の脳の限界を指摘する。「認知科学で、人は認知できる“目の前のモノ”しか組み合わせられないと立証されている」挙句に、日本企業は新卒一括採用から始まり終身雇用、転職しても同業界と、同じタイプの人材が同じコミュニティに何十年と滞留し続ける。「もはや、同じ知しかない環境からはイノベーションは生まれない。目の前の知の組み合わせは、すべてやり尽くしてしまった」と苦言を呈する。

だからこそ、入山氏は「“知の探索”こそがイノベーションの突破口」と断言する。今の自分からは るか遠く離れた知を幅広く探すことを、経営学では“知の探索”と呼ぶ。同時に、様々な知を組み合わ せた後には、それを徹底して深堀して磨き上げ収益化していく“知の深化”が欠かせない。

この知の探索と深化の成功事例としてTSUTAYAを引き合いに出した。CDやDVD販売と消費者金融のビジネスモデルという全く異なるモノを組み合わせ、成功を収めたのがレンタルショップのTSUTAYAだ。「CD1枚1,000円で仕入れ、3日レンタルで100円を取る。創業者の増田氏は、高利貸のビジネスモデルからTSUTAYAの成功を確信していた。」

こうした探索と深化を高い次元でバランスよく実現する“両利き”がイノベーションの成功率を高めると明言する一方、今の日本企業は両利きになりえない、と入山氏はいう。

「日本企業が新しいことを始める際には、まず新規事業推進部といった組織を新設する。専任化により、初めこそ知の探索に集中できたとしても、3年目も経てば『あそこの部門は、赤字を垂れ流す失敗ばかり。早く成果を出せ』となる。とたんに探索を断念し、短期的な利益創出を狙った知の深化だけに偏っていく」結果、探索をせぬまま、中長期的なイノベーションが枯渇してしまうのだ。

個人レベルと組織レベルでの“知の探索”

入山氏は、知の探索を階層に分けて考えるようアドバイスする。「まずは、個人レベルがある。例えば、スティーブ・ジョブズ氏こそ典型的な知の探索人間で、本業から離れた分野に強い関心を持っていた。一例としてカリグラフィーがある。カリグラフィーに対する関心がApple製品と組み合わさることで、非常に美しいフォントデザインが生まれた。同時に忘れてはならないのが、彼が打率1割以下の失敗王であることだ。」

成功の裏には大量の大失敗があることを強調した上で、組織レベルで知の探索を行うには、この失敗をいかに許容できるかが重要だと続ける。理屈はわかるが、今の評価制度ではできないといった企業の言い分には、GEの評価制度を例示する。「成功か否かだけでなく、彼は今回失敗したが次の事業の種を蒔いた、といった定性的な評価も加えること。行動レベルで評価するとなると、上司部下で1on1を実施する等、煩雑だが丁寧な対応が必要になってくる。しかし、これが現代の知の探索を促すグローバル企業の主流だ。」

さらには、経営学の先端で注目を集める“イントラパーソナルダイバーシティ”という考え方も有効であるという。「多様な経験や知見の集合体であるダイバーシティはイノベーションの重要な手段。加えて“一人ダイバーシティ”を実践し、社員一人ひとりが転職や復職、副業等によって、遠く離れた既知を吸収することで、社内に還元できるようになる。」

日本企業に最も不足しているのは“腹落ち”である

入山氏は最後に、知の探索以前に日本企業に圧倒的に不足しているものがあると指摘する。「“センスメイキング理論”は、イノベーションを起こす上で欠かせない考え。平たくいえば“腹落ち”であり、日本企業はこれができていない。」その重要性をアルプス山脈で遭難した偵察部隊の実話をもとに主張した―猛吹雪の山頂で遭難。テントの中で凍え死ぬか下山するか。一人の隊員が見つけた地図が皆を奮い立たせ、決死の覚悟で下山することに。全員無事に帰還するものの、握り締められていたのは別の山の地図だった…。

「冷静に考えれば、正しい地図か確かめず、かつ地図すら読めない猛吹雪の中であったが、下山したら助かるかもしれないと全員が腹落ちできたから、テントを飛び出せた。これが日本企業だったら、方法論や発生リスク、地図の正確性を議論しているうちに凍死してしまっていただろう。つまるところ、主観でも構わないから、将来の会社のビジョンを描いて、社員や取引先といった周囲を“腹落ち”させること。それができなければ“知の探索”にすら至らず、イノベーションは起こせない。」


[講演紹介] 日本経済の成長が停滞する中、世界で生き残るために企業はどのようにして新たな価値を創出すべきか。いま、自社からイノベーションが生まれないことに危機感を感じる日本企業が増えている。 そもそもイノベーションの本質はどこにあるのか。それを阻んでいる日本の企業文化や体質とは何か。そして、その中で個人はどのように動き、価値を発揮すればよいのか。 ベストセラーとなった『世界の経営学者はいま何を考えているのか』の出版以降、ハーバード・ビジネス・レビュー、NewsPicks、Forbes Japanなどで連載を受け持つ注目の経営学者 入山章栄氏が、世界最先端のイノベーション理論を語る。

 

ワークスが主催する「COMPANY Forum」は、その年のトレンドに合わせた有識者や企業の方々に登壇していただくビジネスフォーラム。国を挙げて“働き方改革”が叫ばれた2017年は、Workforce Innovationをテーマにし、人工知能(AI)をはじめとする最先端技術・ビッグデータの活用等、多彩なセッションを開催しました。

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