【講演レポート】次世代IT技術が変える 経理財務の未来
次世代IT技術が変える経理財務の未来
圧倒的な業務効率化の先にヒトは何をするべきなのか
2017年11月22日(水)に開催した「COMPANY Forum 2017」でのジャパン・ビジネス・アシュアランス株式会社 代表取締役 公認会計士 脇一郎氏の講演内容をダイジェストでお届けします。
昨今、AIやRPA、クラウドといった次世代IT技術が経理財務業務に変化をもたらすといわれている。
将来の変化に適応しながら、経理財務がより付加価値の高い役割を担うためには、どのようなスキルを身に着けていくべきなのか。
近年の業務や人材に生じている変化を具体的に紐解きながら、今後の経理財務が向かうべき道筋を示した。
経理財務の現場はすでに変わり始めている
次世代IT技術によって最もインパクトを受けるのは、実は経理財務の領域ではないか。企業を取り巻く環境に合わせて、経理財務部門も変わるべきではないか、そう脇氏は考える。
実際、経理財務の現場は変わり始めている。脇氏は、象徴的な事象として経理財務の代表的な業務であるはずの"記帳業務"がなくなりつつある点に触れた。業務の自動化によって、会計データをアップロードするだけで仕訳が作成されるようになり、人が仕訳作業を行う必要がなくなったのだ。この状況は、経理財務人材の育成にも影響を与えている。経理財務の基本ともいえる記帳業務を通したスタッフの育成機会がなくなるため、いきなり会計データの確認・分析をさせなければならない。飲食店であれば皿洗いから、理容室であればシャンプーから、というように、経理財務における入門業務として記帳をさせる時代ではなくなったと脇氏は指摘する。
その結果、経理財務分野における人材構成も変化している。システム活用が進んだことで、ITスキルを持つ人材が求められるようになっているという。実際、2017年にJBAグループが次世代IT技術を利用した会計・税務サービスの提供を目的に開設した「JBA AIクラウドセンター」でも、システムエンジニアの経験を持つIT系人材の活躍が目覚ましいという。
人材の減少と業務の自動化に備えなければならない
10~20年後には、現在日本の労働人口の約49%が就いている職業が、AIやロボット等に代替可能であるという推計結果がでている。中でも会計などのバックオフィス業務の代替可能性が高いといわ れている。同時に、会計業務従事者や会計関連資格の受験者数も減少の一途をたどっている。1990年から2015年にかけて、会計業務従事者は40%も減少しており、今後もこの傾向が続くと見られている。脇氏は「経理や財務、ファイナンスが、若者にとって夢のない仕事になってしまっている」と危惧する。こうした状況の中でも経理人材を確保するためには、魅力ある職場作りが課題となる。
今後、経理財務業務はどのように変化していくのだろうか。脇氏は、会計システムによって処理していた入力・承認・モニタリング系業務の自動化がさらに進展するという。例えば、承認業務を行うときにすべてのデータを確認するのではなく、一定のルールに適合したデータはシステムが処理し、イレギュラーなデータのみをピックアップして提示する方向に変わる。また、売掛金の消込処理等もシステムが行い、アンマッチなデータ、確認が必要なデータのみを担当営業に通知する。こうした一連の動きをAIやRPAで自動実行するようになるだろう。
未来の経理財務に必要な人材スキルセットとは
今後、“処理”をメインとした業務はなくなる、むしろなくしていくべきだと脇氏は主張する。また、 若者も処理業務そのものに魅力を感じなくなっているという。処理業務をやらせても「機械で処理できないのか」という反応が返ってくるだろう。もはや、大学の授業ですらホワイトボードの内容を書き写したりすることがないのだ。スライドをファイルで共有するほうが圧倒的に効率的だ。経理財務の職場の魅力を上げるには、「記帳業務」よりも「分析業務」、「会計業務」よりも「経営管理」、「法定業務」よりも「経営貢献」というように、より付加価値が高い業務へシフトしていかなければならない。
また、プロセス志向能力とITリテラシーの向上も不可欠である。これからは、データを正確かつ網羅的に収集するプロセスを構築しながら、その新たなプロセスにおいて生じる不正をはじめとしたリスクを感知する必要がある。同時に、次世代IT技術をユーザーとして使うためのITリテラシーの大幅な向上が、経理財務人材に求められている。
今後は経理財務部門自らが業務範囲を拡大していくことも重要だ。具体的には、経理数値を「作成」するというスキルを「モニタリング」するというスキルへと変えていかなければならない。経理数値の作成は、もはやコンピューターが担うようになるからだ。経営層は、経理財務部門に対して経営への貢献を期待するようになる。そのため、「会計専門業務」の担い手から、「企業全体のGRC(ガバナンス・リスク・コンプライアンス)」の担い手として分析スキルを身に着けなければならない。
また脇氏は、マネジャーとスタッフのスキルセットとして、次のように整理した。 マネジャーは、①勘定分析力:自動仕訳の正確性や妥当性を分析してカバーする必要がある。②プロセス構築力:次世代IT技術を取り入れる際のプロセスを、内部統制等を考慮しながら構築する必要がある。③会計論理力:自動仕訳が増加すれば、仕訳そのものがブラックボックス化するため、財務諸表から仕訳を想像できる会計論理力が必要となる。④リスク感知力:財務諸表の正確性の担保負担が軽減される分、不正等のリスクを感知する能力が期待される。
スタッフは、①ITスキル:データ入力よりも、データ出力結果をもとにした集計業務が多くなるので、高いITスキルが必要となる。②勘定分析力:マネジャーと同じく、入力よりも確認作業が多くなるので、勘定分析力が必要となる。③ビジネス理解力:会計技術よりもビジネスと会計の連携を理解できる力が期待される。
脇氏は最後に、AIやRPAをはじめとする次世代IT技術は、ビジネスにおける投資というよりも、変化する業務や人材を前提に、企業を支えるインフラとして捉えるのが適切ではないかと示唆した。
ワークスが主催する「COMPANY Forum」は、その年のトレンドに合わせた有識者や企業の方々に登壇していただくビジネスフォーラム。国を挙げて“働き方改革”が叫ばれた2017年は、Workforce Innovationをテーマにし、人工知能(AI)をはじめとする最先端技術・ビッグデータの活用等、多彩なセッションを開催しました。